しまのま
生活と文化とわたし

親戚の家に行くとお茶と共に必ず出されるものがある。
一つはふくらかんと呼ばれる黒糖を使ったふくれ菓子(蒸しケーキのようなもの)、あるいは月桃とヨモギを使ったかしゃ餅という甘いお菓子。
もう一つは、茶うけ味噌と呼ばれる島の味噌を使ったピーナツ味噌や豚味噌だ。

「味噌」と聞いて想像するねっとりとしたペースト状の味噌とは全く違う、大粒でポロポロとした粒味噌だ。

初めて奄美に来て居酒屋やスーパーで見た人は「これは何ですか?」と必ず質問する。私も全く同じ質問をした覚えがある。

このような粒味噌は、奄美では馴染みのものだが、私は奄美以外では見たことがない。
いったいどのように作っているのか知りたくなり、島で味噌を作り続ける有限会社ホートクを訪ねてみた。

味噌づくりのプロセス

奄美市名瀬の中心部、永田町にあるホートクは、現社長である深佐 太郎(ふかさ たろう)さんのおじいさんが創業した会社で、40年以上も前から「高倉みそ」という粒味噌を作り続けている老舗だ。

ホートクの深佐 太郎社長

現在は、月に3~4回、味噌の仕込みを行なっている。

訪ねた日は、ちょうど仕込みの最中。煙突から湯気が上がって、豆の炊ける良い香りが辺り一帯に広がっていた。

工場内に入ると、スタッフがてきぱきとお米を攪拌(かくはん)している。
米を蒸して麹をつけ、温度を一定に保ちつつ寝かせて米麹を作っているのだ。

米麹を攪拌しているスタッフ

この作業と並行して、大豆を水に浸けてからゆっくりと蒸しあげる。
米麹を作っている間に、大豆が蒸しあがってきた。

蒸しあがった大豆を取り出す

柔らかく蒸された大豆を粒が残る程度に粗く挽いていく。この粗さが、島の粒味噌の特徴だ。
この大豆と米麹と塩を混ぜ、均一になるまで攪拌したら味噌が完成。

なんと、寝かせて熟成させる、という工程がないのだ。味噌は何か月も熟成させて作るものと思っていた私は、このシンプルさにびっくりした。

完成したばかりの高倉味噌

出来上がった味噌は、翌日には袋に詰めて発送される。
「数日経ってお客様のもとに届く頃には、少し熟成が進んで味がなじんでいますよ。」と深佐社長。

熟成はゆっくりと袋の中で進んでいく。麹は味噌の中で生きているのだ。

味噌作りの歴史

奄美の粒味噌は、もともとは島に自生する蘇鉄(そてつ)の実から作った蘇鉄味噌だったそうだ。

江戸時代、特に「砂糖地獄」と言われ薩摩藩の黒糖の取り立てが厳しかった頃、島の人は食べるものがなくて、蘇鉄の実を食べて飢えをしのいでいた。蘇鉄の実には毒素が含まれているので、何度も水にさらし発酵させることで毒を取り除いて作る。大変な手間と苦労を経て食べ物として利用されていた。

蘇鉄の実

近代になっても、戦後などの食糧難の時代にはこの蘇鉄味噌が作られ、島の人の食を支えたそうだ。

しかし蘇鉄は米の代用品だったので、米が手に入るようになった現代では、粒味噌は米で作られることがほとんどである。

島の暮らしと味噌

お茶うけとして以外にも、島ではいろいろな場面で粒味噌が使われる。

塩味が薄めでほんのり甘く、豚肉や魚やピーナッツなどいろいろな具と合わせた粒味噌は、食べ始めたら止まらない。お茶請けにもぴったりだが、黒糖焼酎との相性は絶妙だ。
お酒を飲むときに、おつまみとして粒味噌さえあれば良いと思ってしまうぐらいだ。

ピーナッツ味噌

島では、人が集まる場面で粒味噌が良く出される。そのひとつが八月踊りなどの集落の行事だ。

集落の住民が集まるときに、お酒のおつまみとして、お茶うけとして、粒味噌はほぼ必ず出される人気のサブメニュー。
お正月やお盆などにも人が集まるので、粒味噌が大活躍する。
味噌の保存性の良さも理由の一つに違いない。

八月踊りの様子

また、食事時にもごはんに載せて食べたり、箸休めとして食べたりする。昔から島のどこの家庭でも食卓に上っていたそうだ。
そのため、島で売られているお弁当にも、おかずとしてかなりの確率で入っている。

ちょっと濃いめの味付けになった味噌は、おにぎりの具としても使われる。粒味噌に豚肉を混ぜたものとご飯を合わせた「豚味噌にぎり」や同様に魚を混ぜた「魚味噌にぎり」は島のおにぎりの定番だ。

また、味噌は調味料として炒め物などに使われることも多い。沖縄のゴーヤチャンプルーはお醤油などの味付けが多いが、奄美大島ではニガウリ(ゴーヤ)炒めには粒味噌を入れる。この粒味噌がニガウリとしっくりなじんで苦みを和らげ、マイルドにまとめてくれるのだ。

おしゃれな新しい食べ方も続々登場

茶うけ味噌、お酒のおつまみとして島では定番の粒味噌だが、最近はいろいろな食べ方をアレンジして提供する店も増えてきた。

「クリームチーズと和えたり、クリームチーズと一緒にクラッカーやバゲットに載せて食べると、とてもおいしいですよ。」と深佐社長。

クリームチーズと和えた高倉みそとはちみつをバゲットに載せて

奄美の粒味噌は、東京などの都会のレストランやこだわりの居酒屋さんなどからも注目されているそうだ。
島のレストランでもアレンジして料理に使う店が少しずつ増えてきている。

自分好みの発酵度合いを見つけよう

店舗で販売されている高倉みそは常温保存が可能。封入時にアルコールを添加することで発酵の力を弱め、パッケージが爆発しないようにしているが、それでも袋のなかで発酵は進む。

味噌を使いきれずに置いておくと、最初は薄い黄色だったものが茶色くなり、更にはこげ茶色になる。

八丁味噌のようなこげ茶色になっても、発酵が進んでいるだけなので食用可能。これはこれで深みのある味になり、おいしいのだ。

ある居酒屋では、わざわざエイジングごとに味噌を分けて置いて、料理に合わせて提供しているらしい。

発酵が進むまで食べ比べていき、自分好みの発酵度合いを見つけてみるのも楽しくておすすめだ。

粒味噌はお土産にもおすすめ

粒味噌に他の素材を混ぜて作る豚味噌・魚味噌・ピーナッツ味噌など、いろいろな商品がお土産に買いやすい真空パックや小分けパックなどで売られている。
それぞれ味が違うので、お土産に粒味噌を買って食べ比べてみるのも面白い。

奄美にしかない粒味噌の味をぜひ試してみて欲しい。

高倉みそ
有限会社ホートク

住所:〒894-0023 鹿児島県奄美市名瀬永田町10-23
TEL:0997-52-0148
HP:http://www.hotoku-ltd.com/

勝 朝子

東京出身。2012年から奄美大島と神奈川県湘南エリアとの二拠点居住。 島ではWebライター、Webサイト制作&運営、IT関連サポート、本場奄美大島紬のポケットチーフ「Fixpon奄美」を企画運営しています。 趣味はサーフィン、シュノーケリング、旅行、おいしいものを楽しむこと。奄美黒糖焼酎語り部第88号。 奄美の自然・文化・人が大好きで、島の隅々まで探索中です。

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