しまのま
生活と文化とわたし

奄美の美しい海に立った時、皆さんは何をするでしょうか?
海水浴、お散歩、もちろんただぼーっとする人もいるでしょう。私は最近、海辺を歩くと貝殻を探します。奄美の海辺で見つかる貝殻は色や形、模様が多種多様で、その美しさは見飽きることがありません。
奄美では、貝は観賞用だけではなく、食糧でもあり、かつての貨幣でもあり、時に魔よけにも利用されるなど、生活に根差した大切なアイテムとしてさまざまに利用されてきました。今回は、私たちの生活に身近な貝殻と、貝殻拾いの楽しみ方についてお話します。

食べて美味しい、使って便利な貝

奄美では貝のことを「ニャ」や「ミャ」といいます。貝は定番のおつまみで、居酒屋さんのメニューでもよく見かけます。人気の貝である「マガキガイ」は「トビンニャ」、「チョウセンサザエ」は「カタンニャ」などといいます。
とれたての貝はとっても美味! 海の潮の満ち引きが大きくなる大潮の日の干潮時には、近場の磯へ貝などを獲りに行く人も多いです。潮が引いて現れた磯の岩場に隠れた貝を拾っていきます。チョウセンサザエなど大きな貝は身を食べますが、小さい貝でも出汁がよく出て、最高においしい「貝汁」ができます。
※獲物によっては漁業権が必要です。

奄美市名瀬小湊(こみなと)にある国史跡「小湊フワガネク遺跡」では、6〜7世紀ごろの夜光貝(やこうがい)と、それを加工して作られたスプーンのような「貝匙(かいさじ)」が大量に出土しています。
夜光貝は大型の巻貝で、食べて美味しいことはもちろん、分厚い貝殻は真珠質で、古来より螺鈿(らでん)などの美術工芸品に利用されてきました。岩手県の平泉にある中尊寺金色堂にも、奄美の夜光貝で作られた可能性が高い螺鈿細工があるとか! 現在でも夜光貝を磨いて作られるアクセサリーは人気のお土産です。

食べるだけじゃない、魔除けや宝物にもなる貝

島の集落を歩いていると玄関や軒先に吊るされた貝殻を見かけることがあります。これはスイジガイという貝で、角が6本あり「水」という漢字に似ていることが由来で、火難除けや魔除けになるといわれています。

また、昔から貝殻は子どもたちの遊び道具でもありました。奄美出身の民俗学者である長田須磨(おさだ・すま)さんの著書「わが奄美」によると、子どものころタカラガイ拾いへ行ったこと、特に女の子はキレイなものを光貝(ヒキャラウシクヮ)と名付け宝物にしていたということが書いてありました。

あまり削れていないキラキラしたタカラガイを見つけると嬉しくなります

タカラガイは、丸いフォルムがかわいくて、美しい光沢がある貝です。その本には、琉球でもタカラガイを貨幣として中国や南西諸島と交易したことがうかがえることや、いくつかの国ではタカラガイを貨幣に用いていた時代もあったということが記載されています。
奄美の浜ではよく見かけるタカラガイの貝殻ですが、その美しさにそんな価値があったとは思いもよりませんでした。

貝殻が好きで奄美に移住した塩見さん

現代で貝の魅力を楽しむのにおすすめなのが「ビーチコーミング」。浜辺に打ち上げられた貝殻やシーグラスなどの漂着物を収集したり観察したりすることをいいます。
このビーチコーミングが好きで、奄美に移り住んだ人がいます。ネイチャーガイドをしているACtive-Amamiの塩見雅人さんは、京都府出身で、2020年に大和村に移住してきました。ビーチコーミング歴は約30年。子どものころから貝殻が豊富な南国に憧れがあり、17歳の夏休みには新聞配達のバイトで旅費を稼ぎ、初めて奄美大島へ。その後も2〜3年に一度は奄美大島を訪れビーチコーミングを楽しんできたといいます。

塩見さんは「浜辺で貝を見つけた瞬間、ドキッとするのが病みつきになった理由です。手にとったときの感動もあります。同じ種類の貝でもひとつひとつ模様が違うんですよ!」と目を輝かせます。

ビーチコーミングの魅力を伺うと
「砂浜をたくさん歩くので健康に良いこと、今日は何が見つかるんだろうとドキドキすること。あと、季節によって打ち上がる貝殻が違うので四季を体感できますし、海や貝の写真はインスタ映えします。お金もかからず、コレクションは無限に増えていきます(笑)」と。
話を聞いていると、奄美の貝の種類の豊富さに驚くと共に、塩見さんの貝に対する情熱が伝わってきました。

ビーチコーミングの方法

塩見さんからビーチコーミングの方法を教えてもらいました。
ビーチコーミングは干潮時がチャンス。まずは砂浜の端から端へ、まだ濡れている波打ち際のラインを歩きながら見ていきます。
このラインは打ち上げられたばかりの綺麗な貝殻を見つけられることが多いそうです。
次に、少し波打ち際から離れて乾いているあたりをチェックします。砂浜をよーく見ると、サンゴや貝、海藻が打ち上げられているラインが見えてくるはずです。

この時に注意したいのが、ヤドカリです。
素敵な貝殼ほどヤドカリが入っていることが多いのですが、奄美のヤドカリの中にはムラサキオカヤドカリという天然記念物もいます。決して持ち帰らないでくださいね。

ビーチコーミング時の注意点

サンゴ礁の多い奄美のリーフでは、ウニや鋭い岩で足を怪我することがあります。
砂浜には錆びた釘、割れた電球、ガラス瓶、注射針まで落ちていることもあるので、足全体を覆うマリンシューズのような靴がおすすめです。
また、日陰がないので熱中症対策も必要。アブなどの昆虫や、毒のあるクラゲや魚に触れないように気をつけてください。アンボイナという貝は、口内に猛毒をだす毒針があり、死亡例もあることから要注意です。塩見さんはいざという時のために、海へは2人以上で行くことをオススメしています。

こんな透明なクラゲが打ち上げられていることもあります

海辺の美しさを守ることも大切

海は、私たちにたくさんの恩恵を与えてくれます。
しかし近年、奄美だけでなく世界の浜辺にはプラスチック製品をはじめとしたゴミがたくさん打ち上がっています。

塩見さんは「奄美の海を紹介する体験プログラムを通して、自然を学び、海を大切にしたいという気持ちを育んで欲しい」と言います。
マリンレジャーの他にも、ビーチクリーンも含んだビーチコーミングツアーもやっているので、興味がある方はサイトを覗いてみてください。

奄美は、風光明媚な海辺がたくさんあります。その海辺を歩いて貝殻を探す時間は、とても豊かで、砂浜と海の美しさと心地よい海風を堪能できる、贅沢な時間です。皆さんもぜひビーチコーミングをして、奄美の海辺の豊かさを感じてみてくださいね。

漂着物を取り合うふたり

奄美大島ネイチャーガイドACtive Amami
代表・艇長:塩見雅人
住所:〒894-3103 鹿児島県大島郡大和村津名久51
TEL:080-6173-7931
HP:https://active-amami.com
Instagram:https://www.instagram.com/active.amami/
※2022年3月に民泊もオープン予定。

三田もも子

新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。 2016年4月から奄美大島に移住。奄美の文化を紹介する「ワンダーアマミ」を定期発刊。ブラジリアン柔術と秋田犬が好き。

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