しまのま
生活と文化とわたし

沖縄県内で、毎年旧暦の5月4日(ユッカヌヒー)に行われるハーリー。海神祭ともいわれ、海の恵みに感謝し、海人(ウミンチュ)の航海安全や豊漁を祈願する年中行事のひとつで、サバニという沖縄伝統の木造舟での競漕が行われる。こちら八重山諸島では、海人の集落のある石垣島、小浜島、西表島、与那国島でそのユッカヌヒーに一斉に開催される。


石垣島の中心街にある石垣漁港で行われる、石垣市爬龍船(はりゅうせん)競漕大会は八重山で一番大きな規模のハーリー。海人の本バーリーのほか、一般の部の団体ハーリーや女性だけのマドンナハーリーなどがあり、毎年多くの島民が参加する。明治時代から続いている石垣市爬龍船競漕大会は、今年でなんと117回目。

毎年、ハーリーの1週間前から練習が許され、島全体にハーリーモードが高まりお祭り前のワクワクした雰囲気になってくる。

今年のユッカヌヒーは6月21日。4年ぶりの大会とあって、大きな盛り上がりが予想されていた通り、たくさんの人の参加、応援で会場は熱気に包まれた。

漕ぎ手海人は1週間ほど食事をともにする


海人の本気のたたかいであるハーリーは、ふだん仲の良い海人たちもこの時ばかりは敵同士になる。当日まで1週間ほど漁もお休み。本バーリーの漕ぎ手たちは、その期間練習に集中するため、ハーリー小屋でチームメイトたちと食事を共にする。


大会前日、中二組(なかにくみ)のハーリー小屋では、この時のためにとっておいた本マグロを大きな釜で炊いている最中だった。この日のお昼ごはんは、八重山そばに本マグロをどんとのせていただく本マグロそばだ。


漕ぎ手、関係者、OB、家族、たくさんの人がハーリー小屋に出入りする。前日はもう練習はしないので、漕ぎ手のみなさんもリラックスした様子で明日にそなえる。

話をしていると、やはりみなさんやっとハーリーで漕げることが嬉しそう。そしてもちろん気合いも充分。大一番のレースを漕ぐ西組の漕ぎ手たちに「目指すは優勝?」と聞くと「もちろん!」と頼もしい即答だった。

夜が明ける前からハーリー鉦が鳴る

大会当日、まだ真っ暗な朝5時前、カーン、カーンと、遠くからハーリー鉦が響くのが聞こえてくる。ユッカヌヒーの始まりの合図だ。「ハーリー鉦が鳴ると梅雨が明ける」といわれていて、旧暦でちょうど梅雨明けの季節の頃になる。今年はハーリーの4日後に沖縄の梅雨明けが発表された。

私もはりきって、5時すぎに西組のハーリー小屋におじゃますると、もう漕ぎ手のみなさんや関係者、家族たちが集まっていた。


まだ日の出前の静かな朝の街を、鉦を鳴らして、塩をまきながら、サバニとともに御嶽へ向かう。



一同そろって航海安全と豊漁、それから勝利を祈願する。神聖な空気を纏った時間。



7時すぎ、出発の準備をし、いよいよ自分たちの港から、すぐそばの会場へサバニを漕ぎ出す。

スネーの儀式からハーリーがスタート


8時、海人の全5チームが円をかくようにサバニを漕ぐスネーの儀式で行事が始まる。人で溢れかえる前の港、鉦の音が海に響く。


女性部の踊りや小学生たちのダンスの披露のあとに競技がスタート。だんだんと会場に人が増えてくる。


海人のレース、御願(うがん)ハーリーがスタートを切った。櫂さばきの息が合って、大きな水しぶきがあがる。漕ぎ手が10人、舵取りがひとりで11人が乗船する。団体ハーリーは800m、海人の本バーリーは800mを3周するコース。


応援のパーランクー(手持ちの太鼓)の音と声援が賑やか。


その後には一般の団体ハーリー、マドンナハーリー、中学生ハーリー、水産関係ハーリーが続く。そのすべてのチーム合わせると、今年の参加チームは118。ひとチーム10人、ざっと計算して、海人と合わせ1270人もの人たちが出場したことに。平日にも関わらずすごい人数。出場チームはこの日のためにチームTシャツをつくって当日身につけたりと、海人だけでなく、島の人たちのハーリーにかける想いは熱い。

組の威信をかけた最後の大一番

炎天下、熱戦が繰り広げられ、クライマックスをかざるのは、海人の上りハーリー。組の優勝がかかる大勝負なだけに、気迫満ちる漕ぎ手たち。

スタートし、あっという間に遠くまで漕ぎ進めて小さくなったサバニに目を細め、真剣に見入る会場の人たち。応援にも熱が入り、コース折り返しの度に大きな歓声が上がる。


1周、2周とするたびにどんどん差をつけ、西組がダントツ一位で戻ってきた。満面の笑みの漕ぎ手たちが歓喜とともに迎えられる。


一番先頭でサバニを漕ぐ、一番エークの平良亘さんは「初めての一番エークでプレッシャーもあったけれど、チームが一丸となって勝てた。優勝できて嬉しい」と晴れやかな笑顔をみせる。

上りハーリーの結果により、本バーリーでは、中一組、中二組、西組の3組混合チームである、中・西合同チームの13連覇が決まった。

4年ぶりに開催が叶った大会。今年のハーリーも終わり、八重山の本格的な夏が始まった。

笹本真純

編集者、ライター。茨城県出身。東京でのティーン誌編集を経て、2008年に石垣島に移住。八重山のローカル誌「月刊やいま」の編集を11年間務め、島々の人の暮らしを取材する。2019年よりフリーランスで活動中。

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