しまのま
生活と文化とわたし


石垣島の市街地近く、前勢岳(まえせだけ)という山のふもと、海や竹富島を望む静かな場所ににあるうえざと木工。広い作業場の、開け広げられた扉のむこうにはサトウキビ畑が見え、きびきびと働く人たちが気持ちのいい工房だ。


うえざと木工は、注文によって家具や建具、雑貨などを製作し、島の木材をつかったクラフトは併設のショップで販売している。建具や家具の製作は、住宅のほか、島の学校や市営団地など、さまざまな仕事を手がけている。


お皿やうつわ、カトラリーに箸置き、時計、赤ちゃんのおもちゃ、そしてスケートボードなど、ショップで販売しているクラフトにはすべて島の木材を用い、『KATARIGI』(カタリギ)というブランドで展開。漢字では語り木と記し、生き物である木がクラフトを通して語りかけてくれることを表現する。

手触りがよく、木目がひとつひとつ違うウッドクラフト。長く使うほどに増していく風合いを楽しむことができる。


定番商品の箸置きは、塀などに用いられる沖縄独特のブロック、花ブロックをかたどったもの。


こちらはカードケース。地元のテキスタイルブランド、イチグスクモードとのコラボアイテムも。


人気の壁かけ時計。この木は、春に小さなピンクの花をたくさん咲かせるセンダンの木。毒性があって防虫になるため、以前はよくタンスの材料として使われていたのだそう。

数あるクラフトの、その商品のアイデアはスタッフから自然と出てくることが多いのだとか。20人ほどのスタッフは、島育ちの人も、外から移住してきた人たちも、そして、ベテランの島の人から、木工の世界に興味を持って入ってきた若者までいろいろな人たちが働いている。

昔のように、島の木を活用したい


代表の東上里和広(ひがしうえざとかずひろ)さん。東上里さんは、本土から島に戻ってきた20数年前、自身のお父さんが勤める島の木工所に就職した。それから木工をつきつめたいと、沖縄本島の木工所で修行したのち、初代社長であるお父さんとともに、2000年にうえざと木工を創業した。

当時の材料は、安価で仕入れることができる県外や海外からの木材が一般的になっていたけれど、そのもっと前は当然島の木材が使われていて、石垣島内のものだけでなく、隣の西表島からもたくさんの材木が切り出され石垣まで運ばれてきていた。思えば、生まれ育った実家でも、家具や生活道具はすべて島の木でできていたものだったという。

ほとんど使われなくなっていた島材だけれど、やはり地元のものを使いたいという気持ちが大きくなり、少しずつ島材を使うように。そして、それが評判を呼んで、島内でも島の木を材料とするオーダーが瞬く間に増えたのだそう。

量的にもサイズ的にも、すべてを島の木材でまかなえるわけではなく、現在でも本土や海外のものも使っている。だけれどやはり、なるべくもともと島にあるものを活用していきたいし、「これだけ資源があるのにもったいない」という思いが軸にある。

木材として使用できる木が、八重山には約60種類もある

石垣島や西表島には、木材として使用できる木は60種類ほどあるといわれている。リュウキュウマツやテリハボク、センダン、ガジュマルなど、南方独特の木々を、それぞれの木の性質によって使い分けている。

以前の八重山では、例えば、リュウキュウマツは机やテーブルなどに、テリハボクもさまざまな家具材や台所道具材として用いられていたほか、神行事でのお神酒入れとしての大切な材だったのだそう。

「島の木のことをいちばん知っている人」といわれ、島の木工の世界で、誰もが一目置いている人がいる。木工所を営んで60年ほどになる、トマイ木工所の戸眞伊擴(とまいひろむ)さんだ。東上里さんも、お父さんの時代から交流が深く、戸眞伊さんから教わったことがとても多いと話す。


うえざと木工では2冊の本を発行している。ひとつは「島の木の図鑑」、もうひとつは「島の木の物語」だ。「島の木の図鑑」は、島の木々を写真と文章で紹介し、その特性や、昔どんな家具や生活道具になってきたか、そして、その木にまつわる習わしなどがイラスト入りで掲載されている。発売わずか数週間で完売したのだとか。もともと、島の子どもたちに島の木を身近に、そして大切に感じてほしいと製作したもので、八重山郡内のすべての小中高校に寄贈され、今後も増刷の予定はないのだそう。

「島の木の物語」は、島の木にまつわる物語が躍動感のあるイラストとともに展開している。どちらも、プロにお願いしたものではなく、構成や文章、そして、物語のストーリーやイラストまでも数人のスタッフが考案したのだという。

「誰かがつくらないと」と思ってきたという東上里さん。5年をかけて構想され、2020年に発行されたこの2冊には、島の木々の持つ力がたくさんつまっている。自分が島の先輩たちに教わってきたことが、島の子どもたちにも受け継がれていってほしいと考えている。


カタリギ製作リーダーである、島育ちの西里洋樹(にしざとひろき)さん。在庫してあるさまざまな島材を見せてくれた。湿度の高い沖縄で、天候や湿気との戦いもあるけれど、使えるところは大事に全部使う。それでも出た端材などは、市民にアナウンスをして必要な人にもらいにきてもらうことも。


西里さんは製作について、「磨いていけばいくほどつやが出てきたり、少しずつ形になっていくおもしろさがある」と話す。お客さんに依頼され、相談しながらつくっていき、形となってできあがる。想像以上の出来だと喜ばれるとこちらも嬉しくなる。

現在、島材は、島の木材を取りまとめる八重山森林組合から仕入れることが多いけれど、「庭の木を切ったから使ってほしい」などと譲り受けることも少なくないのだとか。

処分されるだけだったかもしれない木に、また命を吹き込むことができる。そして、それは誰かのもとで長く愛されていくかもしれない。

人の手を入れてもっと豊かな森へ

今後はもっと「森林活用の循環を構築していきたい」と話す代表の東上里さん。山や森は、間伐をして木々の成長を促したり、人が手を入れることでもっと豊かになる。いままさに、県や市の関係機関、森林組合と協働してプロジェクトを進めているところ。森が今よりも健やかになれば、島の自然環境ももっとよくなる。

風通しの良い職場で、個々を尊重し合い、自ずとアイデアもたくさん出てくるような、そんな気持ちのいい工房。好きな時にきて好きな時に帰っていいという斬新なアルバイト設定をしたりと、柔軟で、常に先をいく働き方を見せてくれる。

そんな環境が、島が育む資源を活かしたクリエイションをどんどん生み出している。これからもうえざと木工の職人たちが仕かけていってくれることが楽しみだ。

うえざと木工
所在地:沖縄県石垣市石垣1838
TEL:0980-83-3028
営業時間:10:00-17:00
定休日:土曜日曜
HP:https://www.uezato-wood-work.com/

笹本真純

編集者、ライター。茨城県出身。東京でのティーン誌編集を経て、2008年に石垣島に移住。八重山のローカル誌「月刊やいま」の編集を11年間務め、島々の人の暮らしを取材する。2019年よりフリーランスで活動中。

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