しまのま
生活と文化とわたし

やさしくて温かい色味の草木染。草木染とは、草木の枝や葉、花などを煮出したりして出た色素で糸や布を染める手法。奄美大島では昔から盛んに草木染が行われている。

草木染はヨーロッパや中国などでは紀元前数千年前から、そして日本では縄文時代から行われていたといわれているほど、長い歴史を持っている染物だ。

幕末の薩摩藩士、名越左源太(なごや さげんた 1820~1881)は奄美大島で見聞きしたことを総称「南島雑話(なんとうざつわ)」として丁寧な絵入りで記した。その中には幕末の奄美大島の様子が詳細に描かれており、そこにも奄美の人々が草木染をする様子が見て取れる。

本場奄美大島紬といえば、泥染めの黒い糸で織った物が有名だが、大島紬はもともとは草木染で染めた糸から織られていた。明治初めまでは草木染が主流だったと言われている。

現在も大島紬には泥染と並んで草木染の糸も使用されており、草木染の糸のみで織られたもの、草木染の糸と泥染の糸の両方を使って織られたもの、草木染のあとに泥染をした糸で織られたものなどがあり、大島紬の重要な構成要素としてとらえることができる。

草木染の大島紬の生地

「草木染」で植物の持つ力を生活に取り入れる

また、草木染は、大島紬の染色法として活用されていただけではなく、島在来の植物が持つさまざまな「効能」を生活に取り入れる知恵でもあったとも考えられる。

実際には島のどのような植物が草木染めに利用されてきたのだろうか。
奄美大島で親子で「染め」に携わる、植田さん親子を訪ねた。

植田正輝(うえだ まさてる)さんと娘の美由紀(みゆき)さん親子で営む「工房amaito」。

植田 正輝さんと美由紀さん

正輝さんは鹿児島県知事賞など、数々の受賞歴がある奄美大島の「染師」。国家資格の染色技能士でもある。

「草木染というのは、どんな植物でも染めることができるのですよ。色が出やすい植物ならね。」と正輝さん。

「奄美大島では、例えば、フクギ、テーチギ、ハゼノキ、サトウキビの葉、ソテツ、ハイビスカス、サネン(月桃)、モクマオ、アカメイヌビワ、シイノキ、クチナシ、クズ、ヨモギ、田芋、琉球藍、などたくさんあります。」

こうした植物のなかには、身体によい薬効があるものもある。

いまはほぼ姿を見ることがなくなった「琉球藍」。島の深い海を思わせる藍色に染まり、抗菌や虫除け作用がある。
大島紬の糸を染めるために使われる「テーチ木(シャリンバイ)」は、皮膚の火照りや炎症を抑える働きがある。

また「染め」は、生活のなかで活用された木材や植物葉の利活用という側面も。
例えば昔から防風や防火のために家々の垣根などとして植えられてきた「フクギ」。垣根の定期的な剪定でできる端材を使うと、なんとも明るい黄色が生まれる。
茎を絞って糖分を採る「サトウキビ」。葉の部分は邪魔になるため捨てられるが、丁寧に煮出せば島の風になびくサトウキビ畑を思わせる、自然な緑色が蘇る。
サネン(月桃)は「かしゃもち」などヨモギモチを包む葉としてよく使われるが、染めるとブラウンに染まり、抗菌効果が高い。

ねっとりとしたおいしさが人気の笠利町の「田芋」。茎や葉も染色に使えるというのは意外だが、綺麗なベージュ色に染まる。
島のそこかしこにある身近な植物、ソテツは優しいクリーム色をみせてくれる。

島の暮らしのなかで、身近な植物から、必要な効能をいただいたり、その色彩を楽しんだり。化学染料などを使っていないから、染めた布は、いずれ自然にも還っていく。
自然に寄り添う暮らしを行ってきた島ならではの知恵が、この草木染に集約されているのかもしれない。
 

どのように植物から布を染めるのか

自然からいただく色であるため、草木染は、同じ植物でも使う部位や、季節によっても色の出方が変わってくるという。

同じ植物、同じ媒染を使っても、染める前に媒染するか染めた後にするかでも色が違ってくるし、浸ける時間を変えたり染めるサイクルを何度繰り返すかでも色が違ってくる。

草木染の手順について、植田さんに聞いた。

1.染液(せんえき)をつくる

染める色を決めて、その色の出る植物を集め、木や葉をきざんで煮出し、老廃物を濾して染液をつくる。

 

2.生地の準備

染める糸や布を水洗いして汚れを落としておく。

布に糊がついている場合は、よく落とす。
綿や麻は、ごじる(豆乳)に浸けた後、乾かしておく。この下処理をしないと色がつきにくくなってしまうそうだ。

3.染めと媒染(ばいせん)

染液に浸けて染め、水洗いをして媒染(ばいせん)をする。

「媒染」とは、発色を美しくしたり、繊維にしっかり染料を定着させて色止めをするために、泥やミョウバンなどを溶かした液に浸けること。
媒染をしたら、さらに水洗いをして乾かす。
この作業では、染色→媒染の順にやる場合と、媒染→染色の順にやる場合があり、その順番によっても出来上がりの色が変わってくるとのこと。

4.繰り返し

3の染めと媒染の作業を繰り返す

ここで色を確認し、色が薄い場合には、「染める→媒染する→乾かす」までを最低3回は繰り返すそう。
ただし、あまり繰り返すと生地が傷むので、色の状態と生地の状態を確認しながらの作業となる。

5.色の固定

染料の種類によっては、海水につけて色を固定させる。

媒染に鉄分が含まれる場合は、その鉄分と海水のナトリウムが反応して、色が固定されるので、色止めの効果がある。
その後、しっかり水洗いをして乾燥させる。

草木染の魅力と染めの難しさ

 

「草木染の面白いところは、毎回毎回染めてみるまでどんな色に染まるかわからないところですね。」と美由紀さん。

「草木染は濡れているときと乾いたときとで色が違って見えるので、乾かしてみるまでどんな色に染まったのかわからないのです。
それを計算して染めなくてはいけないのが、難しいところでもあり、面白いところでもあるんです。」

まさに、作れる色は無限大。仕上がりの色も一期一会だ。

奄美大島では、さまざまな草木染の商品が販売されているほか、
自分で染める体験をすることもできる。

その日、そのときにしか出ない「島の自然の色」。
旅の記念に、自分自身で創り出してみるのもいいかもしれない。

工房amaito
所在地:〒894-0501 鹿児島県奄美市笠利町宇宿2180
TEL:080-1501-1858
植田正輝さんの草木染アパレル:https://someshi-ueta.stores.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/amamishimasabakuri/
営業時間:10:00-16:00
定休日:不定休
商品購入のほか、事前に予約をすれば草木染の工程見学可能。

勝 朝子

東京出身。2012年から奄美大島と神奈川県湘南エリアとの二拠点居住。 島ではWebライター、Webサイト制作&運営、IT関連サポート、本場奄美大島紬のポケットチーフ「Fixpon奄美」を企画運営しています。 趣味はサーフィン、シュノーケリング、旅行、おいしいものを楽しむこと。奄美黒糖焼酎語り部第88号。 奄美の自然・文化・人が大好きで、島の隅々まで探索中です。

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