しまのま
生活と文化とわたし

都会にいると、夜空を見上げて分かるのはオリオン座くらいだ。奄美大島では、星の数が多すぎてオリオン座がどこにあるかすら分からなくなる。

どれだけ天体観測に適しているかを示す星空指数という値がある。全国の中でも高い星空指数を誇る奄美大島。そんな奄美大島の星空のことならこの人に聞けといわれている写真家がいる。デジタルコンテンツクリエイター荒木マサヒロさん。

2021年4月に奄美の星空の魅力を伝えている活動実績が認められ、奄美観光大使になった荒木さんに奄美大島の星空の魅力について話を聞いた。

 

 

海岸線を走る車窓に見えた衝撃のさそり座とは

荒木さんが最初に奄美大島を訪れたのは2011年。友人で奄美大島在住のミュージシャンのライブを見に来たのがきっかけだった。しかし、そのときはあいにくの曇り空。夜、空を見上げることはなかった。

星空に驚いたのは2013年のこと。同じミュージシャンのライブを見た帰りだった。車で島の北部にある海岸沿いの道を走っているとき、ふと窓の外を見るとさそり座が大きく輝いていた。

思わず車を停めて星空を見上げる。そこには肉眼でもはっきり分かる天の川の姿があった。

「車で走っていて、停まった場所からすぐに写真が撮れるってどういうこと?!」

それから奄美大島の星空に魅了され、2017年から3年間は、滞在日数はなんと年間100日以上!撮りたい写真をイメージし、天気予報を何度も確認しながらさまざまな場所で撮影した。

他とは違う奄美大島の星空の魅力

荒木さんは以前から星空の撮影をしていた。伊豆や八ヶ岳、日光など日本の各所で撮影をしてきたが、奄美大島の星空は他の場所とは違う魅力があると言う。

「空気が澄んだところの方が星は見やすいので、それまでは高地に行って撮影していました。湿度が低く、雨が降らず標高が高いところを狙っていた。奄美大島は真逆の環境。湿度は高いし雨も降る。なのに、これだけ星が撮れるのは、暗さが深いんだ」

水平線や地平線に明かりが少なく、圧倒的に暗い。それが星を見るのに最高の環境となっている。たとえ街中にいても、車で10分ほど移動すれば明かりが少ない場所に着くのも奄美大島で星空を楽しめるポイントの一つだ。

山に登ってしまえばなかなか景色は変わらないが、奄美大島では一晩の間でも場所を変え、さまざまな景色を撮影できる。四方が海に囲まれているので、どの方角でも撮影が可能だ。

明かりが少なく、少し移動すれば絶好の星空観測ができる。それこそが奄美大島の魅力なのだ。

自然の偶然がいくつも重なった夜

今まで撮影した中で、もっとも印象に残っている景色はありますか?と荒木さんに聞いてみた。

「加計呂麻(かけろま)島の西阿室(にしあむろ)集落から花富(けどみ)集落に向かう林道にある絶景スポット、「花富峠」(通称:タカテルポイント)でのこと。加計呂麻島の林道は倒木や落石があるので必ず明るいうちに現地に向かい、暗くなるのを待ちます。このときはここで夕日が沈むのを見て、いよいよマジックアワーに突入。空はオレンジ色から次第に濃紺へドラマチックな色彩の変化を見せる。南の徳之島の方では雷が鳴っていた。しばらくすると空が暗くなり月が出てきて、天の川が見えてくる。」

こんなに天体現象が一度に見られることはなかなかない。これだけでも奇跡だが、偶然はさらに重なる。

「月が沈み段々と暗くなって星々が輝き始めて天の川も見えてくる。そのとき、ふと後ろを振り返ると、なんとホタルの乱舞。目の前から星々の光を、後ろからはホタルの光を受けた。この経験はもうここだけ。インターバル撮影中だったのでホタルがカメラの前を通ってくれないかなと思っていたら一匹のホタルがスーッと通って行ったんだ。」

それがこの写真だ。

移り変わる空の様子。ホタルの光。
これだけのものが一晩で見られるなんて。「こんな贅沢な場所、他にはない。」と強く感じた。

奄美大島では正月もお盆も旧暦

最近、荒木さんは星だけでなく月にも興味が広がっている。

「島の行事はすべて旧暦でしょ。だから最近は月も撮るようにしているんだ。」

奄美大島では今でも旧暦が使われる。旧暦の正月、七夕、お盆など、新暦のそれと同じくらいか、それ以上に大切にしている。

たとえば旧暦の七夕には家の軒先に七夕飾りをかかげる。これは願い事を書くのではなく、先祖を迎えるためのもの。先祖が迷うことなく家へ帰ってこれるように、なるべく高く飾りつける。

旧暦の七夕から約一週間で旧盆がやってくる。お盆は三日間あり、最初の日が迎え盆。軒先の七夕飾りを目印に降りてきた先祖をお迎えする。そして三日目を送り盆と言って、先祖を送る。

このように、奄美大島では旧暦、月の暦を今でも使っている。中には旧暦の1日と15日に必ずお墓参りに行く人もいる。生活と月の暦が密接に関係しているのだ。

また、旧暦の七夕は必ず上弦の月が現れる。まるで天の川を渡る月の船のように。荒木さんは著書『星を見に連れてって!〜奄美の季節の星空〜』でもこのことに触れている。

“奄美の七夕は旧暦の7月7日。この七夕の日はおりひめとけんぎゅうのふたりが1年に一度だけ会うことが許されている日。だけど天の川が流れているので渡れない。そこにお月さまが迎えにくるんだよ。おりひめは月のふねに乗ってけんぎゅうに会いに行くんだって。そんな言い伝えがあるんだ。旧暦の7月7日にはふねのようなお月さまが毎年必ず現れるんだよ!”

旧暦を使う奄美大島。月と生活の関係を紐解いていくと、文化の奥深さを感じる。

島の人にも星空の素晴らしさを伝えるために

「本土ではなかなか見られない星がある。カノープスという星。これが奄美大島では簡単に見つけられる。」

全天体の中で二番目に明るい星がカノープス。冬の三角形の下、水平線近くに現れる星だ。水平線に近いので、本土では短い時間しか見ることができないが、南に位置する奄美大島では長い時間確認できる。「長寿の星」とも呼ばれ、見た人は長生きできると言う。

80歳を超えてもまだまだ元気な人が多いのは、もしかしたら日頃からこのカノープスを目にしているからかもしれない。

「でも知らない人も多い。こんなに素晴らしいものを自分だけが楽しむのはもったいない。『こんなにすごいところに住んでいるんですよ』と島の人にも知ってもらいたい。」

荒木さんは現在、島民に向けて星空の発信を行なっている。新聞やラジオ、著書を出版したのもそのためだ。

五感で感じながら星空を見上げてみて

島の人にとっては当たり前かもしれないが、他ではなかなか見ることができない星空が奄美大島にはある。

そしてそれを、目だけでなく五感で楽しんで欲しいと荒木さんは言う。

「夕焼けからマジックアワーを経て、だんだん暗くなって星が見えてくる。空の移り変わりをぜひ見て欲しい。耳で波の音を聞き、そよぐ風を全身で感じながら。それだけで贅沢な時間になる。」

ずっと眺めていられる星空。ビーチで波の音を聞きながら夜を過ごしてみて欲しい。流れ星もたくさん見つけられるはずだ。

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奄美大島の星空に興味のある方は、奄美の星空情報番組「星を見に連れてって!」をどうぞ!

全国でネットラジオ「リスラジ」で聴けます。

放送局:エフエムたつごう
第2金曜日と最終週の金曜日の18時半から30分番組。
再放送は翌日土曜日の22時半から。

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田中良洋

兵庫県出身。東京で6年間働くが、都会に疲れて2017年1月に奄美大島に移住。島ではWebライター、映像制作、ドローン撮影、マリンショップのスタッフ、予備校スタッフなど様々な仕事をしている。島生活のことを綴ったブログやSNS「離島ぐらし」を運営中。

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