しまのま
生活と文化とわたし

高級食材として知られる伊勢海老。海の食材が身近な島の暮らしのなかでも、伊勢海老はいつも食べられるものではありません。お祭りやイベントでふるまわれる「伊勢海老汁」に行列したり、おすそわけでいただいたときには、家族みんなでワクワクして味わいます。

実は、奄美大島の漁師さんは伊勢海老を素潜りで獲ります。今回は島人や漁師の目線で伊勢海老についてお伝えします。

島で伊勢海老が登場する時

島に住む私たちにとっても伊勢海老はご馳走です。
プリプリの食感と甘く風味豊かな味は、お刺身、ボイル、パスタなどどんな食べ方でも間違いなく美味しくなるスペシャルな素材です。けれど、島では圧倒的に「伊勢海老汁」にすることが多いです。

美味しいダシがたまらない伊勢海老汁は、たくさんの人とハレの日を楽しむのにぴったりのメニューでもあります。
島のお祭りやイベントで「伊勢海老汁」が出てくると、この機会を逃してなるまいか!とばかりに行列ができます。具は大根とネギくらいで、白いプリプリの身が入っていたらラッキー! 磯の香りと身の甘みを味わいながら大切に食べます。

伊勢海老ってどんな生き物?

島で獲れる伊勢海老で、赤いものは赤エビと呼ばれるカノコイセエビ、青いものは青エビと呼ばれるシマイセエビです。全身は硬い殻に覆われており、まるで武士の鎧のようです。
鋭い棘があるので触る時は軍手が必要なほど。ちなみに主に貝類やウニなどを食べる肉食性。伊勢海老は昼間、岩穴や岩陰に潜み、夜になると獲物を探して出てきます。養殖は行われていないので、伊勢海老は100%天然物です。

伊勢海老は、卵から生まれて1年くらいはプランクトンとして海の中を漂うといいます。その後、島の沿岸に住み着き小さな稚エビになって脱皮を繰り返し(このくらいになると島の港やサンゴ礁の隙間でも見ることができます)、そして約3年もかけて体長20cmもの親エビになるというからびっくり。やはりあれだけ立派な姿になるには時間がかかっているのですね!

奄美の伊勢海老漁の方法

奄美大島では産卵期を除いた8月21日から翌年の4月30日まで伊勢海老漁が解禁になり、漁師さんたちはこぞって漁にでかけ、美味しい伊勢海老を獲ってきてくれます。しかし、あのトゲトゲした伊勢海老をどうやって捕獲しているのでしょうか。
今回は、名瀬港から漁に出ている陽天丸の船長・中村一生さんにお話を伺いました。

伊勢海老は夜行性。動きが活発になる夜の漁が中心となります。そして、なんと漁は器材もなにも持たない、素潜りで行うそうです!

「伊勢海老はサンゴ礁周辺の5〜10メートルくらい潜ったところに生息しています。真っ暗ななか、ライトを照らして伊勢海老を探し、見つけたらエビバサミといわれるハサミで挟んで捕まえます。」

一晩での漁獲量はまちまちといいますが、「一晩で30匹獲ったこともあります!」と、中村さん。

夜の海で見つける最高の獲物。しかし楽しさと同時に、怖さもあると言います。上も下もわからなくなるような漆黒の海の中。主役は海の生き物たちであり、人間は完全にアウエーの環境です。
腕にライトをつけて潜るので、そのライトをめがけてやってくる「ダツが一番怖い」のだそうです。

ダツは長細い魚で、最大の特徴は1mにもなる鋭いくちばし。そして光にめがけて突進してくる特性があることから、夜に漁をするときのライトに引き寄せられ、人が死傷することもあります。
ほかにもサメなど危険な生物がやってくる可能性も多いにあります。伊勢海老漁をする漁師たちは、そんな恐怖と戦いながら漁をしてくれているのですね。

海の恵みに生かされている私たち

中村さんになぜ漁師という職業を選んだのか聞いたところ「自由だから」という答えが返ってきました。
漁の合間に、趣味のサーフィンも楽しんでいる中村さん。仕事とプライベートのどちらも海が舞台ですが、それは島生まれだからこそかもしれません。島生まれ島育ちの中村さんは、小さいなときから海が身近にあり、潜って遊ぶことも当たり前でした。

漁師になるときも、小さなときから培ってきた素潜りスキルがあったため、それほど時間をかけずに独立することができたと言います。

奄美大島の美しい海は、世界自然遺産登録の中心地である豊かな森林環境があるからこそ、創られ、保たれています。恵みの象徴である海から、島人たちは古来より多くの食糧をまかなってきました。
夜の海を体一つで潜っていく漁師たちの姿は、島の自然と共存してきた島人たちの昔ながらのスタイルと同じ。季節や気象条件によって変化する水の透明度や温度などを自分の肌で直に感じながら、目の前の獲物と一対一で向かい合って命をいただいていくのです。

子どもの時から美しい海が身近にあり、当たり前のように豊かな自然を享受できる島人たちは、なんて幸せなんだろう。そう感じました。

奄美の伊勢海老を味わうなら

奄美大島で伊勢海老を食べたいなら、伊勢海老漁が解禁されている8月21日から翌年の4月30日までに来島されることをおすすめします。伊勢海老料理は、海鮮を提供している居酒屋さんやホテルのレストランなどで食べることができます。

漁師である中村さんのおすすめは、なんと丸焼き!
網の上でまるごと焼くそうです。そして、殻を剥いたらお皿に取り分けたエビ味噌をつけて、ワイルドにかぶりつくとか。とっても美味しそうですね。

自宅から注文したいという方は、今回インタビューさせていただいた陽天丸・船長の中村一生さんのインスタグラムからDMや電話で注文することができます。
また、各市町村のふるさと納税の返礼品にも伊勢海老はあります。気になった方はぜひ検索してみてくださいね。

陽天丸
住所:奄美市笠利町節田1717-1
Instagram @1sayebi
TEL:070-8420-3698

三田もも子

新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。 2016年4月から奄美大島に移住。奄美の文化を紹介する「ワンダーアマミ」を定期発刊。ブラジリアン柔術と秋田犬が好き。

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