しまのま
生活と文化とわたし

シャンシャン…コロコロコロ…
あたり一帯に心地よく鳴り響く、かろやかな音色。
奄美に自生する植物「ソテツ」の実で作られた、奄美発・世界初の「なるなる」という楽器です。奄美に魅せられた環境活動音楽家・山北のりひこさんが生み出しました。
かつて、困窮する島の人々の食糧として飢えから救ったことから「島の宝」と言われたソテツの実。平和で豊かになった現代に、「なるなる」が奏でる音はどこまでも優しくやわらかに響きます。
山北さんに「なるなる」製作の思いを聞きました。

「ナリ」×「鳴る」=なるなる!

奄美では、ソテツ(蘇鉄)はとても身近な特別な植物。
かつて、戦争や干ばつなど天候不良による食糧難が続いた時代、食糧として島の人々の命をつないでくれたのがソテツです。
実は幹や実に毒があるのですが、適切な処理をすれば大丈夫。おかゆにしたり味噌にしたりして食してきました。

そのほかにも、伝統工芸・大島紬の泥染めを行う泥田に入れて鉄分を復活させたり、畑の境界線に植樹したり、子どもたちが葉っぱで虫かごを作ったり、、、
いまではソテツを食べることはあまりありませんが、観葉植物として民家の庭先にあるのをよく見かけます。昔も今も、島の人々にとっては身近で大切な植物なのです。

そうした、島の人々にとって身近なソテツの実「なり」に新たな命を吹き込んで誕生したのが、「なるなる」です。
ソテツの実をくり抜いたものが打ち鳴り合って音を出し、手に持って振ったり、手首や足首に付けて使います。
奄美大島でのソテツの名称「ナリ」と、音がよく「鳴る!鳴る!」という感覚にちなんで「なるなる」という名前が付けられました。
ずっと聴いていられるやさしい音色が特徴で、調律されているため1つ1つの「なるなる」にはっきりとした音階があります。
カラフルな色のバリエーションや、形のバリエーションも多く展開しており、楽器として使わない時にはお家の飾りにしてもかわいいデザインです。

開発者の山北のりひこさんは「なるなる」についてこう教えてくれました。

「笛や三板(サンバ)がある沖縄に比べて、奄美は伝統楽器の数が少ないと感じています。六調(ろくちょう)など奄美の伝統的な踊りの際に、このなるなるを手に付けて奄美の新しい伝統楽器にしてもらいたいなと思っています。」

奄美の踊り・六調用に作られた「なるなる」

「なるなる」開発者 山北のりひこさんは世界で活躍するアーティスト

山北さんは、環境活動音楽家として奄美を拠点に世界中で活躍しているアーティスト。
奄美に移住する以前に北海道に住んでいた頃は、北海道の木を自分でくりぬいて皮を張り太鼓を作るなど、地元のものを使ってその土地の特徴が出たものづくりをしてきました。
各地で開催するライブなどでは、「なるなる」をはじめ、ご自身で製作した楽器も使った演奏をされています。
2012年に奄美へ移住した山北さんは、移住当初からソテツが気になっていたといいます。

「奄美は特にソテツが多い場所で、昔はナリ味噌に加工したり、色々と利用されていたと聞いています。それが、今はあまり利用されていない。それが残念で、ソテツを使ってみんなが楽しめるようなものができればいいなと思ったんです。」

島の素材の使い方はすべて地元の人に習ったという山北さん。
ソテツ使い方の他にも、オオハマボウという木の内側から素材を取って紐にする方法なども教えてもらい、「なるなる」の製作に活かしました。

「近所の人や地元の人が、素材の使い方を色々と教えてくれるのがとても嬉しいんです。そうじゃないと、せっかくのいい素材なのに使い方が分からないですからね。そういうのを継承できているのが、すごく嬉しいこと。」

初めて完成した「なるなる」のプロトタイプですが、これには割れやすいという欠点がありました。
ソテツの実の芽が出る部分は薄くなっており、そこが割れやすく亀裂が入ってしまうのです。
ソテツの持ち味は活かしながら、なんとか割れにくい「なるなる」を作れないだろうか?
試行錯誤を重ね、製作から4年経った2016年にアイディアが浮かび、いい音を奏でられて丈夫な「なるなる」へ改良することができました。

「なるなる」の製作工程

すべての工程をハンドメイドで作る「なるなる」の製作工程を見学させてもらうことができました!
聞けば聞くほど、とても細かく手間ひまのかかる作業で作られていることが分かり、「なるなる」が繊細で美しい音色になるのも納得できるほどでした。

まずは、ソテツの実を採集します。
ソテツの実はなるべく大きなものを選ぶのがポイントだとか。

採集したソテツの実を水につけます。
1ヶ月以上つけておくと、鮮やかなオレンジ色の皮がきれいにむける状態になるので、丁寧にはがします。

皮を取り除いた実を乾燥させたら、やすりで実の一部を削ります。
断面が角にならず円形になるよう注意しつつ削っていきます。

実を削ると中に白い部分が見えてくるので、ドリルで中身を出します。
ドリルだけでは白い部分や茶色い渋皮が残っているので、残りは手作業で丁寧にくり抜いていきます。

はんだごてを使って紐を通すための穴を2つ開けます。
ここまでで、ソテツの実はやっと「なるなる」で見た形になりました!

紐を通す前に、ソテツの実を調律します。
手元の石の上に実を置いて鳴らせ、1つ1つ耳で聞いて音階ごとに分けていきます。
「この作業は耳がいい人でないとできないよね~」と言いながら、難しい調律を楽しそうに進める山北さん。
たしかにこれはプロのアーティストだからこそできることですよね

半音ごとになんと19もの音階に分け、同じ音階の実だけを使って1つの「なるなる」に仕上げていきます。
1つの「なるなる」にはソテツの実が16個付いているのですが、16個の実の音程はすべて同じ音階に揃えられています。
だからこそ「なるなる」にはそれぞれちゃんと音階ができるんですね。
これだけ多くの工程を経て、たっぷりと時間をかけ、手作業で丁寧に作られた「なるなる」。
ハンドメイドだからこそ、世界でひとつだけの楽器になっています。

奄美の自然を使ったものづくりへの思い

山北さん「これいいでしょ!ヒヨコみたいでかわいくないですか?」なるなるの実を上から見た図。

「その土地のものを使うのは、僕にとって当然のこと。地元のものを使ってものづくりをすると、その土地の特徴が出るんですよね。なのでそういう風にするようにしていて。」と言う山北さん。
染める時も、奄美の伝統的な「テーチ木(シャリンバイ)染め」で染めると原価が上がってしまい、1万円以上の製品になったりすることもあるそうです。
それでも、こだわって作ったものは買ってくれる人がいるのでこだわりがいがあるとのこと。

テーチ木で染めたソテツの実

また、「ソテツ製の楽器は自分しか作ってないっていうのもワクワクするよね!」と楽しそうに話してくれました。
取材中、山北さんが「楽しい」「ワクワクする」という言葉をよく使うのがとても印象に残りました。
この「ワクワク」を感じ取る直感力が、開発のパワーの源になっているのかもしれないと感じます。
「こんな感じで、のんびり作っています。手仕事だから作業量が多いのが今の1番の悩みかな。色んな人に手伝ってもらえたらいいなと思っています。
なるなるがもっと広がって、作業してくれる人みんなが潤い、島が潤う。そんな形になればいいなと。」
山北さんの「ワクワク」への挑戦はまだまだ続いています。
奄美大島の自然を活かした山北さんの「なるなる」、ぜひその音色を楽しんでみてくださいね。

奄美発、世界初の楽器「なるなる」は、1つ6,000円(税込み)。
ご注文はFacebookから、山北さんへ直接メッセージを送ってください。
希望の色や形など、相談に乗ってもらえますよ。

 

山北さんFacebookアカウント

藤原 志帆

大阪出身、26歳で奄美大島へIターン。大学在学中はチリ、スペイン、アメリカに留学し、中南米の6カ国28都市をバックパッカーとして周遊。その後新卒で不動産広告のITベンチャー企業に就職し、トップセールスを獲得する。美しい海に憧れて奄美大島に移住してからは、フリーライター、アフリカンダンサー、ブロガー、通訳士(スペイン語・英語)、予備校、島料理屋など多方面で活動。地酒の黒糖焼酎が大のお気に入り。 奄美大島観光・生活情報ブログ「奄美大島に行こう」を運営。

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