しまのま
生活と文化とわたし

「このバナナ立派で重いね! 一人では持てないから手伝って〜」と声がして、朝陽に照らされながら、今日も開店準備の始まったゆうゆう市。
軒先の島バナナはまるで「OPENしてますよ」ののぼり旗代わりです。

ゆうゆう市とは、沖永良部空港から車で約20分、和泊町大城字(集落)にある農産物直売所。
2001年に無人市からはじまり、字の有志メンバーで様々な工夫をこらしながら、20年続いている手作りの直売所で、現在お店の運営メンバー約10名、そして字内を中心に島内の生産者さん約50名が参加しています。
旬の採れたて野菜、隣接する加工場で手作りされたお菓子や加工品、お花や苗などが売られていて、同字に住む私にとっても日頃からお世話になっている場所です。
今日はそんなゆうゆう市の一日に密着してみることにしました。
どんな方々に出逢えるでしょうか?

7:00 加工場でお菓子作りがはじまる みんな大好きねじりドーナツ

今日は、ふくれ菓子とねじりドーナツを作るそうで、手際よく生地を混ぜ、絶妙なねじりの技術でどんどんドーナツは揚げられていきます。その様子は、見ているだけでわくわく。
優しい甘さとこのねじりが生み出すカリカリ部分としっとり柔らか食感が味わえるねじりドーナツは大人気のロングセラー商品です。

お菓子作りをする谷山せい子さんは、ゆうゆう市の前身である無人市を始め、その後このお店の立ち上げから中心的に活動してきた方。
「当初、鹿児島本土の無人市などへ視察に行ったが、野菜を作っている人の多い大城字ではきっとすぐできると思い、実現させることにした」と語り、それから約20年、今では島内外から多くの注文を受ける直売所として成長してきました。

7:30 ぞくぞくと運ばれてくる採れたて野菜! <開店>

なんだか店がにぎやかになってきました。午前のレジ当番、児玉さんいわく「ここからの一時間が一番忙しい!」とのこと。ぞくぞくと生産者のみなさんが野菜を持ってきてくれます。
一輪車を押して坂をのぼってくるおばあちゃん。もうすぐ90歳には見えない驚くべき元気なパワーで、畑で採れたかぼちゃや赤瓜を運んできました。

「今日はムジを持ってきたよ」と見せていただいたのは、田芋の茎(ズイキ)の部分。

島では「ムジ」と呼ばれており、郷土料理の「ムジイーチ」に使われる食材。ムジイーチとは、ムジと豚肉や人参、島かまぼこなどを一緒に炒めて作る野菜炒めです。田芋を生産する農家さんが減っているので、今では貴重な食材になりつつありますが、昔からの味をもとめて購入する方が多く、人気ですぐに売り切れてしまうそうです。

バイクの座席の中から出てきたのは、なんと立派な冬瓜! 島では「シブイ」と呼ばれ、煮物にしたり、鶏肉とシブイのお味噌汁にするのがおすすめとのこと。

みなさんそれぞれ、一輪車や原付きバイク、シニアカー、軽トラで颯爽と現れ、自慢の野菜を納品。あっという間に旬の野菜や果物で売り場がいっぱいになりました。

生産者のみなさんに「ゆうゆう市に参加していてどうですか?」と伺うと、口々に「とにかく、楽しい。野菜を育てるのがおもしろい。また作ったものが売れて喜んでもらえるのが嬉しい」
「ここに来て朝 ”おはよう” とお互いに挨拶するだけで、1日の楽しみと元気がでてくるんだよ」とおっしゃっていました。

ゆうゆう市は、ただ野菜を売る場所ではなく、生産者にとっても元気の源になっているようです。

8:00 福祉施設や保育園などのから給食用の注文があり、野菜の配達が出発

ゆうゆう市の野菜は、地産地消給食や福祉施設、病院での食事作りにも使われており、様々な場所で活躍しています。

9:00 店中に蒸したてのふくれ菓子のあま〜い香りが漂う♪

加工場で蒸しあげられたふくれ菓子は、その上にダイブし寝てみたくなるほど(笑)
ふかふかでいい香り。黒糖の香りと甘さが上品で、牛乳との相性も抜群。えらぶに来たらぜひ食べていただきたい逸品です。

「ゆうゆう市のふくれ菓子が日本一おいしいと思っているのですが、そのおいしさの秘訣は一体何なんでしょうか?」と伺うと、「島の黒砂糖を使い、シンプルな材料で飽きのこない味に仕上げている。家では出せないこの火力で一気に蒸し上げることがポイントかもしれないね」と教えてくださいました。

ふくれ菓子は数量限定、人気のお菓子なので、午前中に売れ切れてしまうこともあります。
購入希望の方はお早めにご来店を。

10:00 島の飲食店さんが仕入れに来たり、地元の方、観光客の方など様々な方がお買い物に来る。

隣町からの常連だというお客さんは「島の色々な種類の野菜が揃っていて、ここに来て何が並んでるのか見るのが楽しみなのよ」と言いながらお買い物を楽しんでいました。

12:30 午前中のレジ当番さんと午後の当番さんの交代時間。

14:00 午後はお客さんの流れが落ち着く時間帯。お客さんとの会話も楽しいひととき。

「クレソンはどんなして食べたらおいしいですかね?」「サラダや炒めてもおいしいよね」
など、食べ方のおすすめ情報を共有できるのも生産者と買い手の距離が近いゆえのいいところ。
午後のレジ当番、村山さんいわく「お客さんが今日このお野菜でどんな料理を作ってたべるのかなぁ?」と想像するのも楽しみのひとつとのこと。

17:00 あっという間に閉店時間。今日も一日おつかれさまでした。 <閉店>

外に出ていた商品を店内に片付けたり、お掃除をして閉店。今日もたくさんの方々が訪れたゆうゆう市でした。

ゆうゆう市は様々な島の野菜や果物のみならず人と出逢える場所

会長の谷山洋子さんと児玉京子さんは、「ゆうゆう市の一番いいところは、生産者さんやお客さん、色々な人と出逢える場所であり、交流の楽しさがあること」「会員には高齢者も多いので、月に一度メンバーが集まる定例会では、育てている野菜や運営の課題の話だけでなく、体操や脳トレも取り入れて、楽しみながらそれぞれの健康を気遣う工夫もしている」といいます。
毎日野菜を持ってきてくれる高齢の生産者さんたちが元気かどうか、お互い確認しあえる場所でもあるのです。

しかし一方で、お二人からは「集落の高齢化率は上がっており、年々野菜を作る生産者は減ってきている。これからは、若い人にもお庭や小さな畑でも良いので野菜作りに興味を持つ人が増えてほしいなと思う」「若い人が消費者としてだけでなく、生産者としても関わり地産地消を一緒に支えてくれることを願っている」というお話もありました。

今回一日密着してみて強く感じたのは、ゆうゆう市は単なる直売所ではなく、コミュニティを支える大切な場にもなっているということでした。
また実際に、島のおいしい野菜や手作りお菓子は、購入した島の人たちや観光客のお腹と心を満たして喜ばれており、みんなにとって元気の源になっているといえます。

そんな、パワフルな島の方々に出逢えるゆうゆう市、ぜひ一度訪れてみてください。

大城ゆうゆう市
【所在地】〒891-9125 鹿児島県大島郡和泊町大城123
【電話番号】0997−92−1004
【営業時間】月・水・金・日7:30〜17:00、火・木・土7:30〜12:00
【アクセス】沖永良部空港から車で約20分、和泊港から約15分、駐車スペース約10台
【店舗紹介】春は特産でもある馬鈴薯(じゃがいも)、夏場は島の果物、秋から冬にかけては野菜や柑橘類が特に豊富に並びます。四季折々の島の恵みをぜひゆうゆう市で見つけてみてください。

吉成泰恵子

京都府出身。2014年から母の出身地である沖永良部島在住。3年間、和泊町まちづくり協力隊として地域活性化のため各集落の方々との様々な活動を経て、現在は、通訳案内士として日・英観光ガイドやバスガイド、自宅の一部で「井戸端あ〜みちゃ」というコミュニティスペースを運営中。

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