しまのま
生活と文化とわたし

島唯一の「黒糖」工場を訪れる

スチームサウナのように漂う湯気。

どこで息をしても鼻を抜ける甘い空気。

忙しなく大釜や鍋をぐるぐるとかき混ぜる人々。

とろみがかった茶色の液体は鍋の中でブクブクと細かく泡立つや否や、たちまち焦げ茶から黄土色に変色。平そのみさんはその変化を指さし、「これはいい黒糖だ」と教えてくれた。

熱気のせいもあるのだろうか、どこを切り取っても好奇心をそそられるワンダーランドに興奮する。島にこんな場所があったのか。はじめて見る風景だったが、現場にいる人は当たり前のようにきびきび動く。まるで知らない国の知らない風習を覗いているようだ。

鹿児島県の奄美群島、沖永良部島にある「まごころ製糖」。

奄美地方は18世紀、統治していた薩摩藩への年貢として黒糖生産がはじまった。現代でもサトウキビの買取りには国から補助金が受けられるため島内にはサトウキビ農家が多い。しかし、補助対象は砂糖などの原料となる分蜜糖の生産を目的としたもので、黒糖は対象外。

そんな背景もあり、島内で栽培されたサトウキビの多くは分蜜糖の生産設備を持つ製糖会社が買い取っており、ここ沖永良部島においてはまごころ製糖だけが黒糖を生産している。

気さくで冗談好きの平そのみさん

まごころ込めて昔ながらの黒糖づくり

まごころ製糖のはじまりは、18年前、花農家をしていたそのみさんのお父さんが若い頃、お隣の徳之島でしていた黒糖づくりの再現を試みたことがきっかけ。「腕がよかったみたいで。人の家に住み込み職人のようにやってたんだって」とそのみさん。まごころの裏には強いこだわり。製糖には厳しく、今も工場にお父さんがいると空気はピリッとするという。

煮立てられ、無数に大小の泡が立つ糖液(サトウキビの絞り汁)

黒糖は型に流し込まれるとすぐに冷えて固まる

つくるものは『純黒糖』。水分を蒸発させて固める伝統的な製法で製造された黒糖にだけ名乗ることが許され、ミネラル分や鉄分などが取り除かれていないことが特徴。保存料も入れられておらず、賞味期限は三ヶ月と短く、鮮度を保つためにも多いときは月三度はつくる。

サトウキビ本来の栄養素は純黒糖が一番よくとどめている。

大まかな製糖の工程は、①圧搾機でサトウキビを絞り、②釜で一時間以上かけて煮詰め、③鍋に移して撹拌して冷まし、④型に流し込んで冷まして、⑤固まったものを割る。

そのみさんが圧搾機にサトウキビを差し込んでいくと、

溜め込まれた糖液がポタタタと落ちてきた。

絞り尽くされたサトウキビの山でその大変さが想像できる

黒糖を分けてもらったので、ぜいたくに口に放り込む。固そうに見え、舌の上で乗せると水分を吸い取りほろほろに崩れていく。コクのある甘みを置いて間もなくなくなった。あとにベタつく甘みが残らない、自然由来の素材と昔ながらの製法から生まれるものなのだろう。

こだわりは、「分からないものは使えないから」とよそからサトウキビを仕入れず、自分たちで栽培からつくっているところだという。もちろん極力農薬は使わない。そのみさんはお父さんからよく『純黒糖には毒出し効果があり、食べれば72日生き延びられる』と聞かされたとのこと。食べ物に困った時代の黒糖の有り難みを感じる言葉だ。「今、朝ちゃんと起きて仕事ができるのは、地のパワーをいただいているからなのかもしれないね」と話す。

「地産地消のその先、もはや自産自消ですね」と筆者が話すと、「自画自賛かな、あはは!」とそのみさんは陽気に笑った。

サトウキビを刈るにはちょっと暑い天気、収穫にいそしむのはそのみさんの旦那さん

そんなこだわりが盛りだくさんのまごころ製糖だが、これまでに何度も人から『量が増えるから白糖を入れろ』と言われてきた。しかし、自分たちが食べれば味の違いなんてすぐ分かる。お父さんが身体を悪くする中で迷ったこともあったが、「それだとそもそもやっている意味がない」とみんなで話し合って、今日までに至っている。

そのみさんは言う。「コロナ禍でやるかやらんかという話にもなり、たたんじゃえば借金も残らないしその方が楽だったけど、『誰にもできないことをやることに価値がある』と思って続けることにした。正直、でっかく儲けられる仕事じゃないけど、島にないといけない。娘たちがお婿さんを連れてきても、ここまで分かってて農業できる人はそんなにいないから、(製糖工場は)『このまま(家の)離れになってもいいね』と笑い話してるところ」。

やちむちは毎日焼いており、商品があるときは「やちむち」の木札が掲げられる

まごころ製糖の代表的な黒糖商品たち

製糖は多くて月三回ということもあり、いつでも見られたり、つくりたての黒糖を食べられる訳ではない。しかし、そのみさんには工場のすぐ近くにあるまごころ製糖に行けば会えるかもしれない。

黒糖も、サーターアンダギー、落花生に絡めたやじまめ、水飴、島版ホットケーキとも言える「やちむち」などのさまざまな郷土菓子などに加工され、店頭に並べられている。

直売所では島内のどこよりもお得に購入できる

割られた黒糖は、まるでお徳用のチョコレートのようだ

やちむちは家庭によって作り方が異なるという

まごころ製糖のやちむちは、外はパリッと、中はモチッと

おつまみにもぴったりのみそピーなどもある

とくに糖みつアンダギーは人気商品(あと筆者のおすすめ)だ

おすすめ商品を持ったそのみさんを撮らせてもらった

最後に、記事を読む人へのメッセージをお願いした。

「純黒糖は身体に良いものの代表、ミネラルも豊富、お料理にも使ってもらえたらいいな。黒糖に限らず、島にとって大事なものを昔の話や思い出とともに食べてもらいたいね。」

まごころ製糖
所在地:〒891-9132 鹿児島県大島郡和泊町後蘭611-1
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜日
TEL:0997-92-2857
HP:http://www.junkokutou.com

ネルソン水嶋

1984年大阪出身、母の故郷は沖永良部島・国頭のえらぶ二世。2020年夏に移住、ライターやYouTuberとして島暮らしの様子を発信。「地域づくりと多文化共生」というテーマでTシャツ制作など事業展開中、詳細は本人まで。

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