しまのま
生活と文化とわたし

「奄美大島にいる両生類と爬虫類の写真はすべて撮りました。できるか分からないですが、生きている間にすべての動植物の写真を撮りたいですね。今、6割くらいは撮れたかなと思います。」

そう語るのは奄美博物館に勤める平城達哉(ひらぎたつや)さん。奄美大島出身で、子どものころから生き物が好きだった。大学時代から生き物の写真を撮りながら動物生態学の研究をしている。

2021年7月には世界自然遺産に登録されるかもしれない奄美大島。世界から注目される奄美大島の自然の魅力とはどこにあるのか。
令和元年8月にリニューアルされた奄美博物館の展示とともに、平城さんに紹介していただいた。

勉強せずに山で生き物を探した浪人時代

今でも年間120日以上は山に入り、植物や動物を観察しながら写真撮影をしている平城さん。子どものころは家にあった双眼鏡を持ち出し、生き物を探して遊んでいた。

小学校の途中から野球をはじめ、高校までは野球に明け暮れた。充実していたが、引退してからやりたいことが分からなくなってしまった。そんなとき、子どものころに生き物を探して遊んでいたことを思い出した。

「奄美大島に生息する生き物の勉強をしたい。」
生まれ育った島で子どものころから見ていた生き物たち。その研究ができる大学を目指すことを決めた。

「ずっと野球しかしていなかった」ので、現役での大学合格は難しく、浪人することになった。浪人一年目は勉強そっちのけで知り合いのハブ獲り名人と一緒に山に入る日々。成績は上がらなかったが、このときの経験が平城さんのその後のキャリアの後押しとなる。

小学生のころは自分の足で行ける範囲だけで生き物を探していたが、ハブ獲り名人と一緒に行く山はまったくの別世界だった。見たことのない生きがたくさんいる。奄美大島の山には、こんなにも生き物がいるのかと驚いた。

初めてアマミノウロウサギを見たときは興奮して眠れなかったほどだ。母親から借りたデジタルカメラを使い、夢中で写真を撮った。

2年浪人し、琉球大学の理学部海洋自然科学科に進学。大学に合格した次の日には一眼レフカメラを購入し、本格的に生き物の写真を撮り始めた。

大学卒業後に奄美大島に戻り、博物館の職員として働き出した。未だに仕事終わりや休日には山に行き、生き物の写真を撮る。最近はケナガネズミの授乳シーンを撮ることができた。何度も見た生き物でも、出会うたびに新たな一面を見せてくれるからおもしろい。

今では奄美大島のいろんな学校へ行き、子どもたちに島の自然の豊かさを伝える授業をすることもよくある。

小さな島で生きる数々の生き物たち

子どもたちに授業をするとき、よく質問することがある。

「日本で確認されている鳥は全部で650種類。そのうちの何種類が奄美大島で見られると思う?」

季節による移動をせず、通年同じ地域で見られる鳥は留鳥(りゅうちょう)と言う。奄美大島の留鳥は36種類。一時だけ見られる渡り鳥も合わせると、なんと315種類の鳥がいる。奄美大島の面積は約712㎢で日本全体の約0.19%しかない。その土地に半数近い鳥類が記録されているのだ。

哺乳類は日本全国で109種類、そのうちの13種類が生息している。両生類や爬虫類は、日本全国で確認できるうちの約20%の種類を奄美大島で見ることができる。

面積は小さいのにこれだけ様々な生き物がいる。しかも、奄美大島でしか見られない種類も多く、昆虫や植物に至っては毎年のように新種が見つかるほどだ。

生物多様性という言葉には、3つの意味がある。『種の多様性』『生態系の多様性』『遺伝子の多様性』だ。

『種の多様性』は言葉の通り、種類が多いということ。『生態系の多様性』というのは、生き物の生きる環境がどれだけあるか、どれだけ豊かな暮らす環境があるかを指す。

奄美大島は北緯28度に位置する。世界的に見ると、このエリアは砂漠や乾燥地帯が多い。奄美大島は黒潮の影響で雨が多く、豊かな森が広がっている。森だけではなく、河川やマングローブ、サンゴ礁などさまざまな環境がある。奄美大島は生態系の多様性がある。

『遺伝子の多様性』というのは、同じ種であっても個体や個体群の間に遺伝子レベルで違いがあること。

「たとえばアマミイシカワガエルを見つけたとして、研究機関で遺伝子を調べたらそれが龍郷町の個体なのか、宇検村の個体なのか、住用町の個体なのか分かるんです。人間でも暑さに強い人と弱い人がいるように、生き物も個体によって個性が違います。」

多種多様な個性を持つ個体がいること。これも生物多様性にとっては重要で、奄美大島の環境はそれを満たしている。

大人から子どもまで楽しめる展示を目指して

奄美博物館は昭和62年7月に開館し、令和元年8月にリニューアルオープンした。3階建てでそれぞれのフロアでテーマに沿った展示が並ぶ。

1階は『海見(あまみ)』をテーマに、大きな舟が入館した人を迎える。集落の名前や島の方言や島唄など、海に囲まれた奄美大島の文化を紹介している。入ってすぐ左手にある蔵書スペースには、使わなくなった舟をアレンジしてできた本棚や、島のシイや松の木で作られた机が並ぶ。

2階は『㭺美(あまみ)』。このテーマは、1984年に福岡県の太宰府政庁跡から「㭺美(あまみ)嶋」と記された木簡が出土したことから付けられた。集落の文化や歴史を紹介し、旧石器時代から琉球、薩摩、アメリカ領土だった時代の様子が時系列に展示されている。

3階は『雨見(あまみ)』。降水量が多い奄美の雨を見ると表し、自然について紹介している。中心部に森をイメージした展示があり、中には動物の剥製が見られる。たくさんの生き物の剥製があり、すべて見つけるのは簡単ではない。

モニターで動物や植物の説明を見ることができるが、ここに表示される写真はほとんど平城さんが撮影した写真だ。自然の紹介だけでなく、その中で奄美大島の人々がどう暮らしてきたのかが分かる展示になっている。

博物館というと、敷居が高いと感じてしまう人もいる。なるべくどんな人でも楽しんでいただける博物館を目指し、展示内容を工夫してきた。中には数時間もずっと展示を見てくれている方もいる。

「私は自然の知見はありますが、歴史や文化はまだまだ分からないことも多いです。博物館には、各分野に精通した職員がいます。ぜひ展示を見て気になったことがあれば質問してほしいです。奄美の歴史、自然、文化に興味がある人は学べることはあると思います。」

自然と共に生きてきた人々の文化を伝えていく

奄美大島の文化や自然は、まだまだ研究が及んでいないことが多い。これまで正しいと信じられてきた説が、新たな研究によって覆されることもある。

「常に最新の研究成果を反映していきたいですね。再び訪れても、その度に発見があるような博物館になればいいと思っています。」

奄美大島を訪れた人に感じてほしいのは、島とは思えないスケール感の自然。そして自然と共に暮らす人々の歴史や文化だ。

飛行機から見える海を見るだけでもきれいで感動する奄美大島。少し知識があるだけで、見える景色はきっと違ってくる。奄美博物館で歴史や文化、自然のことを知って観光すれば、あなたにとって奄美大島は特別な場所になるだろう。

 

奄美市立奄美博物館
住所   鹿児島県奄美市名瀬長浜町517番地
☎︎    0997-54-1210
FAX   0997-53-6206
開館時間 午前9時~午後5時(ただし入館は午後4時30分まで)
休館日  第3月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)

田中良洋

兵庫県出身。東京で6年間働くが、都会に疲れて2017年1月に奄美大島に移住。島ではWebライター、映像制作、ドローン撮影、マリンショップのスタッフ、予備校スタッフなど様々な仕事をしている。島生活のことを綴ったブログやSNS「離島ぐらし」を運営中。

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