しまのま
生活と文化とわたし

世界自然遺産への登録に向けて動く奄美大島。奄美大島には、たくさんの種類の動植物がいるだけでなく、森、川、海など、生き物が生息できるさまざまな環境がある。生物多様性の観点からも、奄美大島の自然は世界に誇れるほど豊かなものだ。

世界自然遺産に登録されるということは、奄美大島の自然が人類共通の『宝』と見なされたということ。豊かな自然を守り、後世に残していく。それこそが世界自然遺産の目的だ。

自然への理解を深め、見守り続けている人たちがいる。エコツアーガイドだ。ある基準を満たした人が認定ガイドとなり、正しい知識を伝える役割を担っている。

奄美群島のエコツアーガイド認定制度が始まった背景にある思いとは。現場で活躍するガイドの人々が思うこととは。この制度に関わる人々に話を聞いた。

奄美群島のエコツアーガイド認定制度の成り立ち

奄美群島エコツアーガイド認定制度は奄美大島だけの制度ではない。徳之島、喜界島、沖永良部島、与論島、奄美群島すべてに関わる制度だ。

平成19年、環境省が主導となりエコツーリズム推進法が成立し、翌年4月から施工された。エコツーリズム推進法とは、環境に配慮しながら地域の自然や文化、人と触れ合うエコツーリズムを進めるための枠組みを定めた法律だ。

平成26年3月に、奄美群島12市町村長、学識経験者、関係機関、各島協議会代表者が集まり、エコツーリズム推進を図る最終決定機関である奄美群島エコツーリズム推進協議会が発足。エコツーリズム推進法に基づき、地域関係者が共通の認識のもとエコツーリズムの取り組みを推進するための指針となる「奄美群島エコツーリズム推進全体構想」の策定を開始した。

平成29年2月7日、奄美群島エコツーリズム推進全体構想は国の認定を受け、奄美群島エコツーリズム推進協議会では、エコツアーガイド認定講習の実施や運営、自然観光資源モニタリングに関する調整を行なった。

平成29年には、エコツアーガイドの資質向上及び社会的地位の確立を図るため『奄美群島エコツアーガイド認定制度』が確立された。令和2年度からは更に実績要件や筆記試験を導入し、基準を満たした人だけが認定ガイドとなるようにした。

「奄美大島が国立公園に指定され、自然環境の価値が高まっていました。知名度が上がるにつれ、自然資源への負担も増えていきます。一時だけ注目されるのではなく、自然を保全しながら満足度を高め、持続可能なものにすることが重要だと考えています。」

そう話すのは、奄美群島広域事務組合の世界自然遺産推進係の白石重樹(しらいししげき)さんと福永顕志(ふくながけんし)さん。

世界中から注目されるのは、良いことばかりではない。観光客が増えることで環境自然が失われていく可能性もある。実際、他の世界自然遺産に登録された地域では、外部から来たガイドが増えたことで地域の大切な文化や自然が脅かされたケースもある。

共通のルールを定め、島全体のガイドの質を向上させることで貴重な文化や自然を守っている。

地域に根ざしたガイドを増やすために

現在、奄美大島には2種類のガイドがいる。登録ガイドと認定ガイドだ。現在、登録ガイドは108名、認定ガイドは77名いる。

登録ガイドになるためには、奄美大島に直近2年以上居住しており、ガイド業の実績が1年以上あることが必要だ。また、認定ガイド2名以上の推薦があり、初期段階育成研修を修了していること、保険に加入し、救命救急講習を1年以内に受けていることが条件になる。

認定ガイドには、登録ガイドとして1年以上の実務実績がなければ認定されない。認定講習研修を受けることや、救命救急法について上級救命講習等を受講しているなども認定の条件となる。

登録ガイドとなれば、ガイドとしてお客様を自家用車で案内することが可能となり、認定ガイドになると奄美大島の金作原原生林への案内ができるようになる。徳之島でも、林道山クビリ線で野生生物の観察をする場合、ガイドの同伴が必要だ。

令和2年度には更新講習も実施された。外部から講師や全国で活躍しているガイドを呼び、ケーススタディをした。ガイド同士であらゆる場面を想定し、より安全に奄美大島の自然を楽しんでもらうにはどうすれば良いか話し合った。

毎年登録ガイドと認定ガイドの数は増えているが、登録ガイドにならなければ案内ができないわけではない。今後は制度の認知度を高め、より多くのガイドに加盟してもらい、観光客にも利用してもらうことが課題だ。

自然と共に生きてきた島の文化を守る

「仲間が増えることは良いことだと思います。同じ思いでガイドができると思いますし、皆さんそれぞれ得意分野が違う。動物に詳しい人もいれば、植物に詳しい人も。海のことを知る人、文化や歴史に精通している人などさまざまです。できるだけ多くの人に加盟していただき、同じルールで一緒に活動できればいいと思います。」

奄美大島エコツーリズム推進協議会の副会長である、スローガイド奄美の富岡紀三(とみおかのりぞう)さんはこう話す。

富岡さんは2006年からマングローブカヌーのインストラクターを始めた。2009年ごろからスローガイド奄美を立ち上げ、マングローブカヌーの他にも金作原原生林を案内したり加計呂麻島を案内したりしている。

もともとカメラが好きだった。山に入って植物の写真を撮るうちに名前を覚え、生態系に詳しくなった。

「『もうそろそろあの花が咲く頃だな』とか『新しい発見はないかな』と思いながらガイドをしています。何度も通っている道でも季節や天候によって自然は変化するので見ていて飽きないです。」

毎日見ているからこそ、変化に敏感になる。見慣れない植物を見つけたとき、それが在来種なのか外来種なのか判別する。外来種であれば、生態系に影響が出る可能性があるので環境省に報告する。正しい知識を持ち、日頃から奄美大島の山を見ていなければできない仕事だ。

「奄美大島の人たちは自然と共に生きてきました。自然とともに文化や伝統があり、神様がいる山もあります。島のガイドたちとそういった背景も共有して、共に自然を守っていきたい。」

エコツアーガイドは、島の自然や文化、伝統を最前線で守る人たちなのだ。

知らなかった島の姿を知るために

奄美大島に観光に来たら、ぜひエコツアーガイドにお願いして案内してもらって欲しい。

富岡さん「わたしもガイドをするまでは自然を見ても『ただの森じゃないか』と思っていました。でも知れば知るほど『こんな珍しいものがこんなところに!』と驚きの連続でした。ただぐるっと回って帰ることもできますが、文化的な考え方を知ることで見え方が変わってくると思います。」

白石さん「自然や文化など、深く奄美大島の魅力を体験できると思います。ぜひ、安心安全なガイドをご利用ください。」

ずっと自然や文化を見守り続け、後世に残す役割を担うエコツアーガイド。奄美大島へ訪れた際には、ぜひ彼らにガイドを頼んでみて欲しい。きっと、知らなかった奄美大島の姿を見ることができるだろう。

奄美大島エコツアーガイド連絡協議会

奄美群島広域事務組合エコツアーガイド

スローガイド奄美
https://www.amami-guide.com/
所在地: 〒894-1116 鹿児島県奄美市住用町大字摺勝555−13
電話: 0997-69-5501

田中良洋

兵庫県出身。東京で6年間働くが、都会に疲れて2017年1月に奄美大島に移住。島ではWebライター、映像制作、ドローン撮影、マリンショップのスタッフ、予備校スタッフなど様々な仕事をしている。島生活のことを綴ったブログやSNS「離島ぐらし」を運営中。

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