しまのま
生活と文化とわたし

「Life with Good Spice」

人々の人生に活気を与え、面白みを加えたい。人々の生活の一部となれるカレーを提供したい。私の故郷である奄美大島の魅力を伝えたい。

奄美大島の南部、瀬戸内町古仁屋にあるスパイスカレー店、SPICE MAFIAのコンセプトだ。

店舗だけではなく、キッチンカーを使い奄美大島全体で移動販売を行ったり、クラウドファンディングで資金を集めてクラフトカレーの開発をしたりと、事業の幅を広げているSPICE MAFIA。

店長の弓指圭輔(ゆみさしけいすけ)さんはまだ28歳(2021年3月時点)だ。

いつから店を出す計画を立てていたのか、カレーへのこだわり、瀬戸内町や奄美大島への思いとは。話されるエピソードのひとつひとつが、まるでスパイスのように刺激的でおもしろかった。

中学卒業時から描いていた夢

「24歳のときに30歳までにやるべきことをリストアップしました。今の達成率は……だいたい88%くらいかな。」

弓指さんは瀬戸内町の古仁屋出身。中学校を卒業するときには、いずれ自分でお店を出したいと考えていた。高校は島を出て調理科のある高校に進学。卒業後は東京の飲食店で経験を積んだ。

子どものころから「なんで?」を考える子だった。「なんでこうなっているんだろう?」「このお店のカウンターはなんでこうなんだろう?」いろんなことに興味がわいて調べていた。

それは料理でも同じだった。なんでこの調味料を入れるのか、なんでこの切り方なのか。あまりにもしつこく聞くので上司からは「うるさい!」と怒られるほどだった。しかし、この「なんで?」を考えるおかげで本質を見抜く力が養われたのではないか、と弓指さんは話す。

あるとき、ひとつの疑問が浮かんだ。「なんで味はおいしいのに数年でつぶれてしまう店があるんだろう?」味がおいしいのはもちろんのこと。店を運営するためにはブランディングやマーケティングの知識も必要だと感じた。

ちょうどその頃、奄美大島が世界自然遺産に登録される動きがあることを聞いた。海外のお客様も増えるかも知れない。そう感じた弓指さんは、海外に渡り英語や経営ノウハウを学んぶことを決めた。

自分にしか作れないカレーを目指して

「スターバックスってかっこいいじゃないですか。コーヒー屋だけど、ただコーヒーを提供しているだけじゃない。空間にいることが価値になっている。そんなお店を目指したい。生活の一部になり、行きたいと思ってもらえるような場所になればいいなと思ってデザインしました。」

内装のほとんどは同級生たちが手伝ってくれて、D.I.Yで完成させた。瀬戸内町は工事関係の仕事をしている人も多い。おしゃれだが落ち着いていて、男性でも入りやすい店を目指した。

メニューは以前アルバイトをしていたカフェで開発していた。店長の好意でキッチンを使わせてもらい、仕事が終わった後に試作し、好評ならメニューに採用してもらいお客様の反応を見た。

実は弓指さんはカレー屋で働いていたことはない。和食の経験が長いので、お出汁ベースのカレーを作ってみるなど、自分にしか作れないようなカレーを目指している。今も外食しておいしいものがあると、「これをカレーにアレンジするならどうするか。」という視点で研究している。

「毎日日替わりのカレーを出しているんですが、常連さんがメニューを見ずに日替わりカレーを注文してくれると嬉しくなります。うちの味を信頼してくれているんだなって。」

島に来るたびに来店してくれる観光客もいる。友人を連れて来てくれることもあり、着実にファンを増やしている。今後は、地元の肉や野菜を使ったカレーも作っていきたいと話す。

農家の被害を減らすために開発したクラフトカレー

地元の素材を使ったカレーのひとつが、クラウドファンディングで資金を集めて開発したクラフトカレーだ。「リュウキュウイノシシと生姜のキーマカレー」と「島豚と梅のポークビンダルカレー」の2種類を開発した。1,000,000円を目標金額に設定していたが、目標を大きく上回る1,466,000円が集まった。

リュウキュウイノシシは奄美大島や沖縄に生息するイノシシで、本土のニホンイノシシより小さいのが特徴だ。見た目は可愛らしいが、農家にとっては畑を荒らす害獣でもある。

「じいちゃんばあちゃんからからよく話は聞いていました。畑を荒らされたって。子どものころから聞いていたのに、なんで何年も解決されないんだろう、ってずっと疑問でした。」

郷土料理というほどではないが、島の人にとってリュウキュウイノシシは馴染みのある食材だ。知り合いの猟師が獲ってきたリュウキュウイノシシの肉をバーベキューで味わうこともある。

しかし、島の人にすればもらうのが当たり前になってしまっているリュウキュウイノシシ。わざわざお店で買うほどのものではない。定期的に獲れるものでもないので、飲食店に卸すことも難しい。買い手がつかず価格が高騰し、和牛並の値段になってしまっている。

価格が高くなると買い手が少なくなる。売れないと猟師になる人が減る。猟師が減ると農家の被害が増える。そんな悪循環が島全体の問題になっている。

「リュウキュウイノシシ、味はおいしいので。自分の作ったカレーで使うことで、定期的に売れる販路が作れれば猟師になる人が増えるかもしれない。それで農家の被害も減ればいいなと思っています。」

レトルトカレーだがクオリティに妥協はしなかった。国産肉使用、小麦粉不使用、添加物は使わない。素材の味を活かしてできる限りお店の味を再現することにこだわった。通常のクラフトカレーに比べれば価格は高いが、素材や味にこだわる人には満足していただけると思う自信作になった。

世界中に奄美大島の魅力を伝えられるように

なぜ古仁屋でお店を始めようと思ったのか。その理由を聞いてみた。

「頑張っている先輩や同級生がいるからですね。マーケットを考えれば地方は難しいのは確かだけど、そこで頑張っている人たちがいる。負けたくないと思う。『あいつ俺の後輩だよ』『あの店があって良かった』と言ってもらえるようになりたいです。」

海外にいるとき、ショックなことがあった。

「『日本から来ました』と言っても『東京?』と聞かれる。『奄美大島です』と答えても伝わらない。英語もまだ話せなかったので『ほぼ沖縄です』と答えるしかなかったのが心残りでした。」

これから世界自然遺産にも登録される奄美大島。世界中から注目される可能性はあるが、まだまだ認知度は低い。自分の発信で奄美大島や古仁屋の魅力が伝われば嬉しいと弓指さんは話す。

まだまだやりたいことはある。弓指さんの挑戦は始まったばかりだ。

 

SPICE MAFIA
住所 鹿児島県鹿児島県大島郡瀬戸内町古仁屋15-19
☎️ 0997-76-3439
営業時間 LUNCH:11:00〜15:00
     DINNER:18:00〜20:30
定休日 不定休
Instagram https://www.instagram.com/spice_mafia_amami/
      https://www.instagram.com/spice_mafia_news/

田中良洋

兵庫県出身。東京で6年間働くが、都会に疲れて2017年1月に奄美大島に移住。島ではWebライター、映像制作、ドローン撮影、マリンショップのスタッフ、予備校スタッフなど様々な仕事をしている。島生活のことを綴ったブログやSNS「離島ぐらし」を運営中。

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