しまのま
生活と文化とわたし

「あるものをそのまま紹介するのではなく、新しく、より良い形で提供するのが私たちらしさだと思っています。」

そう話すのは、MISHORAN CAFEをプロデュースする株式会社しーまの同店マネージャー豊山琴音さん。奄美市の観光公園内に2018年にオープンしたMISHORAN CAFEは、カフェ、お土産販売、観光案内所の機能を持つ場所。新スポットとして注目を集めると同時に、どんな店にしていくか、というコンセプトを組み立てていくことはなかなかタフな仕事だ。

オープンから3年たったMISHORAN CAFEは、今や観光客だけでなく、島の人も島の魅力を再発見できるスポットになっている。豊山さんが語る「わたしたちらしさ」とは何か。奄美大島に来たらぜひ訪れてほしい『MISHORAN CAFE』の魅力に迫る。

愛を持って商品を紹介したい

MISHORAN CAFEがオープンしたのは2018年の4月。カフェが建つ「あやまる岬」は、奄美大島を代表する絶景スポットだ。晴れていれば喜界島がはっきりと見え、美しい海の海水プールやソテツジャングル、サイクル列車や遊具、グラウンドゴルフ場などがあり、家族で遊べる憩いの場となっている。空港から車で10分もかからず来られるので、島に来たらまず訪れるという観光客も多い。

この公園内に2018年、奄美市が整備したのが「あやまる岬観光案内所」。カフェやお土産販売の機能も持つこの施設を、同市内でフリーペーパー作成やサイト運営、イベント企画などを行っている株式会社しーまがプロデュースすることとなった。

ウェブやフリーペーパーで島の情報を発信してきたしーま。取材を重ねることで、島にはたくさんの良いものや、生産者の思いが込められているものがあることを知った。カフェにはスタッフが心からおすすめしたい商品が並ぶ。

「愛が大事だと思っています。お土産ひとつでも、本当にその商品を良いと感じていて紹介できれば、熱や想いは伝わると思っています。誰がやっても同じような売り方や見せ方ではなく、その人じゃないとできない紹介ができればいいなと思い、プロデュースしています。」

島の人も知らないようなものを仕入れたい。その思いから、豊山さんは毎日のようにSNSを使い検索している。奄美群島の情報は埋もれてしまっていることも多い。さまざまなキーワードでネット検索をしたり、観光協会の人に話を聞いたりして情報を集めている。誰も知らないものを誰よりも早く紹介したい。そんな思いで商品を探している。

MISHORAN CAFEの強みは『編集』

今でこそ、多いときには月に3,000人以上の人が訪れるMISHORAN CAFEだが、オープン当初はあまり知られていなかった。メニューも、観光客向けに鶏飯やあずきがゆなど、島の郷土料理を提供していた。

方向性が定まってきたのは、『塩豚バーガー』を開発したときだった。島の伝統料理である塩豚をハンバーガーにしようと考えた。監修を島の料理人に依頼し、伝統料理をそのまま出すのではなく、新しい形で提供することに挑戦した。

この『塩豚バーガー』が好評で、看板メニューになった。「これだ!」豊山さんは手応えを感じた。島ならではのものを、自分たちなりの新しい形で伝えること。それがこのカフェの役割だと思った。

ウェブサイトやフリーペーパーでこれまで島の情報を編集して届けていた株式会社しーま。事業内容は変わっても、島の情報を編集して届けることは変わらなかった。編集こそがしーまの強みであり、しーまらしさだったのだ。

今も、スタッフとともに島の素材を使ったメニュー開発に励む。カフェで販売している商品を使い、どんなメニューが作れるのか日々試行錯誤している。

カフェメニューのハニーラテには笠利産のハチミツを。黒糖ミルクには加計呂麻島の黒糖を使っており、どちらも気に入ればお土産として購入できる。

島パンジャムセットは、島で採れるフルーツや野菜で作られているたくさんのジャムをパンにつけて食べられるメニューだ。ジャムは味が分からないと購入に至らない。カフェで味わえることで、お土産にジャムを選ぶ人も増えている。

島の人にも島の魅力を知ってほしい

2019年10月、MISHORAN CAFEと隣の芝生広場で星をテーマにしたイベントを行った。その名も『星ふるマルシェ』。島は星空がとても綺麗に見える。だけど、意外に星をじっくりと見たことがある島の人は少ない。

飲食ブースやDJ、ワークショップや写真撮影ブースを用意した。すべて『星』をテーマにし、飲食店には星や月をイメージしたメニューを考えてもらった。イベントは大成功。駐車場がいっぱいになるほど人が集まり、飲食ブースのご飯は足りなくなるほど盛況だった。

心配していたのは天気だった。曇っていては星が見えない。当日はカウントダウンをして一斉に電気を消したが、企画者である豊山さんも直前まで星が本当に見えるのか分からなかった。カウントダウン中に不安がよぎる。「見えなかったらどうしよう…」

電気を消すと、そこには満天の星が現れた。「わぁ…!」参加者から歓声が上がる。自分が思い描いていた演出の通りになった。

「やっぱり島っていいよね。」

参加者からもらった感想で一番嬉しかった言葉だ。同じ時間、同じ場所で同じ景色を共有し、自分が良いと思った島の魅力に共感してもらう。それまではウェブやフリーペーパーを通じての発信だったので、なかなか共感してくれる人の顔が見えなかった。今はリアルな声が届く。それがやりがいになっている。

奄美大島には、旧正月に「ナリムチ」と呼ばれる正月飾りを作る文化がある。しかし、最近ではやらない家も多い。近年では移住者も増えたので、島に住んでいるが経験したことない人もいる。そんな人のためにナリムチ体験ブースを用意した。

「観光客だけでなく、島の人にも島の魅力を改めて感じてもらえる場所にしたい。」今後も季節に合わせて、奄美の文化を感じられる催しをしていく予定だ。

情報が集まり、編集して発信する

「観光客の皆さんに島のことを教えてもらっています。」

MISHORAN CAFEのスタッフのひとり、與(あたえ)さんは話す。観光業に携わる人でもないと、地元の観光情報は知らないものだ。有名な観光地には行ったことがあっても、宿泊施設は泊まることがないので分からない。そんな情報はお客様から教えてもらう。観光で来られた人に教わって、島の魅力を知ることも多い。

MISHORAN CAFEには、「たびポスト」というものがある。カフェを訪れた人が、島のおすすめや良かったところをカードに書いてくれる。それを見て、行く場所を決める人もいるし、帰りに寄って感想を伝えてくれる人もいる。MISHORAN CAFEに訪れるたびにこのポストを見て、自分たちの島を楽しんでくれている人がいることを知り嬉しくなる島の人もいる。

もちろん、教わってばかりではない。「雨の日のおすすめは?」「ウミガメが見える場所は?」などお客様から質問されることも多いので、スタッフのミーティングのときにはクイズを出し合い、島の観光情報をお互いに補っている。

島の人や観光客、さまざまな人がカフェを訪れ、情報が集まっている。集まった情報を編集し、カフェを通じて発信する。MISHORAN CAFEはただのカフェではない。情報や人のハブ(中核)となる、島の魅力をより良い形で伝える拠点なのだ。

あやまる岬にあるMISHORAN CAFE、旅のはじまりに訪れてみることをおすすめする。

 

 

MISHORAN CAFE -ミショランカフェ-
あやまる岬観光案内所
@ayamarumisaki
住所 奄美市笠利町須野682
☎️ 0997-63-8885
営業時間
(MISHORAN CAFE)   9:30〜16:45 LO
(あやまる岬観光案内所)8:30〜17:00
メール info@shi-mas.jp
定休日 年中無休
※荒天の時は臨時休業をする場合があります

田中良洋

兵庫県出身。東京で6年間働くが、都会に疲れて2017年1月に奄美大島に移住。島ではWebライター、映像制作、ドローン撮影、マリンショップのスタッフ、予備校スタッフなど様々な仕事をしている。島生活のことを綴ったブログやSNS「離島ぐらし」を運営中。

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