しまのま
生活と文化とわたし

奄美大島では、住民同士がお互いに助け合う「結いの精神」が現在も育まれています。
そんな「結いの精神」の象徴とも言えるのが、集落の住民が出資しあい運営する「共同売店」です。

共同売店では商品を販売しているだけでなく、住民同士のコミュニケーションや情報交換の場となっており、集落の絆づくりに大きな役割を果たしています。

地域の自立発展や、災害時などに大きな力を発揮する住民同士の連携・団結の拠点となっている共同売店。

もちろん、集落の人だけでなくだれでもお店を利用することができるので、奄美大島の「結いの精神」を感じに訪れてみてもいいかもしれませんね。

集落のみんなで運営する共同売店って?

店内には地元の小学生が商店を紹介した手作り新聞が!集落のみんなに愛される共同売店(大棚商店)

奄美大島の一部の地域には、集落の住民が出資して運営する「共同売店」があります。
集落の人々の大半が株主として運営し、利用客も集落の人々が中心。
まさに、集落による集落のための商店が共同売店なのです。

奄美大島では昔から集落(シマ)単位での暮らしが基本となっており、現在でもその習慣は人々の中に残っています。

過疎化が進んだ地域では、個人商店が少なくなったり、なくなってしまう場所も。
そんな地域でも人々が集落の中で暮らしやすいよう、高齢者の方への宅配や地元食材を使ったお惣菜の販売など、地域の課題に合わせて特色ある活動を行っている共同売店もあります。

現在、共同売店は奄美の宇検村に3店舗(芦検、名柄、平田)、大和村には大棚商店があり、奄美大島以外では沖縄にもありますが、その数は減ってきているのだそうです。

なんでも揃う大棚商店。100円お惣菜の製造販売も!

そんな共同売店のひとつが大和村の大棚集落にあります。
開業から100年以上の歴史があり、戦前から集落の暮らしを支えてきた大棚商店。
集落内で唯一の売店ということもあり、たくさんの人がひっきりなしに出入りします。

ここでは生活に必要な食品や日用品が多く販売されており、お米や調味料などの必需品以外にも、木材やセメント、特産品のすもも専用の段ボール箱など、小売店では珍しい商品も揃っています。

わたしが訪れた時に店内にいたのは、レジカウンターに立っていたお母さんと、ドリンク片手に店内の椅子に座っておしゃべりをしていた2人のお母さんたち。

今日働いているのは1人なのかな?大変じゃないのかな?と思って聞いてみると、「お客さんもみんな集落の人で知り合いだから、ここにいれば会えるという楽しみもあるよ」とほがらかな笑顔で教えてくれました。

商店で購入したお弁当を、近くの海辺でいただきます!

大棚商店は小さな子どもからお年寄りの方まで集落の人々が顔を合わせる交流の場でもあります。
お昼時にはお弁当などを買いに来る人で列ができる日もあり、夕方には学校から帰ってきた子どもたちも加わってにぎやかになりますよ。

お弁当やお菓子、ジュースやお酒なども販売されており、「近くに来たらまた立ち寄ってね」とお店のお母さんが声をかけてくれました。

大棚商店では独自の取り組みとして、ワンコイン惣菜の製造・販売を行っています。
このワンコインとは500円…ではなく、なんと100円のこと!
メニューは日によって変わりますが、この日も80円~200円のお惣菜メニューが店内に掲示されていました。

お惣菜を製造するのは、集落の人が中心となって設立した相互扶助団体の「結(むすび)の会」のメンバー。
地元のシマ野菜の煮物や、高齢者が自宅で作る機会が少ない揚げ物などをメインに、どんなお惣菜を作るか決めているんだそうです。

お惣菜は、予約があれば近くの加工施設「大和まほろば館」で調理してこちらで販売されます。

「結の会」では他にも、高齢者が集まれる「ゆらいの場」を作ったり、商品を独居高齢者の家に配達して見守るなど、集落に必要な取り組みを住民主導で行っています。

共同売店で顔を合わせる絆づくりで災害時にも団結!

共同売店では商品販売ももちろん大切な役割ですが、住民同士の絆を強めて集落の団結力を高める役割があることにも注目されています。

集落住民は共同売店の株主総会などによって商店の運営方法や集落の今後などについて考え話し合う機会があり、そこでの絆が集落の団結力を強める要因にもなっています。

奄美大島では2010年に甚大な豪雨災害がありましたが、「結いの精神」によって住民同士が助け合ったことで被害が最小限に抑えられたと言われています。

豪雨災害当時、大和村内各地のトンネルや市街地へ向かう県道沿いにはがけ崩れが多く発生して通行止めになり、各集落が一時完全に分断されてしまいました。
大棚商店では店頭の商品だけでなくストックしていた商品もすべて販売し、それでも不足していた紙オムツやミルクなどは商店の代表たちが協力して歩いて運び、仕入れたそうです。

陸の孤島となってしまっても、共同売店に必需品の備蓄があり、集落の団結力が強かったからこそ、災害の危機を乗り越えることができました。

集落の住民みんなで作り、運営し、集まりの場になる共同売店。
日常の語り場としても、いざという時に助けを求められる場所としても大切なこの場所では、集落のみんなの顔を見に今日もたくさんの人でにぎわいます。

 

■大棚商店
住所:鹿児島県大島郡大和村大棚76
営業時間:7:30~12:30、15:00~19:00
定休日:ほとんどなし(旧盆の期間などはお休み)
電話番号:0997-57-2002

こののぼりが立っていたら営業中!

藤原 志帆

大阪出身、26歳で奄美大島へIターン。大学在学中はチリ、スペイン、アメリカに留学し、中南米の6カ国28都市をバックパッカーとして周遊。その後新卒で不動産広告のITベンチャー企業に就職し、トップセールスを獲得する。美しい海に憧れて奄美大島に移住してからは、フリーライター、アフリカンダンサー、ブロガー、通訳士(スペイン語・英語)、予備校、島料理屋など多方面で活動。地酒の黒糖焼酎が大のお気に入り。 奄美大島観光・生活情報ブログ「奄美大島に行こう」を運営。

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