しまのま
生活と文化とわたし

日本で第一号の世界自然遺産である屋久島。この大自然の島では、人々の心を惹きつける神秘的な光景をたくさん目にします。

高い山々の頂に巨石が鎮座していたり、樹齢数千年を超える大きな木が森の守り神のように立っていたりと、まさに神業!と思いたくなるような絶景ばかり。

今回は、そんな自然と深く繋がり生きてきた島民が、島暮らしの中でずっと大切に守ってきた神社や祠を紹介したいと思います。

山岳信仰の重要神社で、島民の精神文化に触れる/永田集落の永田嶽神社

まずは、屋久島の西北端にあり、空港から車で45分ほどの永田集落にある永田嶽神社から。

“屋久島で一番海の美しい町”と言われるほど、白いビーチとエメラルドグリーンの海が広がる永田集落。町の中央には清流の永田川が流れ、民家の脇には水路が張り巡らされていたりと、水の音を聞きながら歩くだけで心が癒されます。

「永田嶽神社」は、まるで住民を見守るかのように、集落の真ん中に鎮座されています。
御祭神は、天津日高彦火火出見尊(山幸彦)、島の山頂に建立されている数々の祠には、「一品宝珠権現」と彫られているものが多いのですが、神仏習合の影響のため、こちらの御祭神と同一神と考えられています。

山岳信仰の屋久島は、今も”岳参り”と言われる行事が残っています。里を代表する数人が海の砂や酒を持って山に入り、各山々の祠で集落の安寧や豊穣を祈る大事な習わしですが、永田嶽神社は、集落から望む永田岳を信仰する住民の拠り所として、古くから暮らしの中心にあったそうです。

拝殿横の大きな岩には麿崖題目と呼ばれる日蓮宗の題目が彫られており、廃仏毀釈の名残りを伺わせる貴重な史跡として、屋久島町文化財に指定されています。

境内の周りには、竹林や池などがあり、なんだかほのぼのした気持ちになります。人々の祈りに寄り添うアットホームな神社です。

住民の暮らしの隣りにある、自然のエネルギーに満ちた異世界へ/志戸子集落の住吉神社

長い枝をヒゲのように地面まで伸ばし、まるで森の仙人のようなガジュマルの木。そんなガジュマルが群になって海のすぐ側まで迫る志戸子集落には、住民に愛される素敵な神社があります。

県道を山手側に曲がり少し進むと鳥居が見えてきました。細い参道を森の中へと車で進むにつれ、なんだか空気が変わっていくのを感じます。モダンな手水舎で清め、苔むす階段を上がります。

鬱蒼とした森の中、静かに佇むのは住吉神社。まるで異世界に迷い込んでしまったのではないかと思うほど、神聖な雰囲気に満ちています。葉っぱの大きな亜熱帯植物が蒼々と繁り、とにかく自然のエネルギーが凄い!

御祭神様は、本殿に「底筒男命、中筒男命、上筒男命、息長帯姫命」、そして摂社の八幡神社には「仲哀天皇、応神天皇、神功皇后」がいらっしゃいます。国内に沢山ある住吉神社の中でも、こちらは原始的な雰囲気を存分に纏った南の島らしい神社です。

摂社の前に立つ木に螺旋状に着生している天然のオオタニワタリや、自生していた杉を抱き込みながら天に向かって真っ直ぐ伸びるアコウの御神木。境内の周りで繰り広げられる植物たちの饗宴に心が奪われます。

「志戸子では、行事や催事の中心には必ず神社があるんですよ」

そう語るのは、区長の竹之内秀彦さん。この日、真辺由紀子さんと竹之内幸さんの世代を越えた3人が、住吉神社について語ってくれました。

皆さん、神社の維持活動や行事などに積極的に参加しているそうで、大晦日になると県道から神社まで108本の松明が焚かれ、参拝客へ温かい汁物が振る舞われるのだそう。子供達参加の節目の行事などは神社で行われる事が多いらしく、何世代にもわたり住民みんなで大切に守られてきたことを感じます。

清らかな空気漂う敷地をのんびり歩きながら、地場産業を支える御神徳に触れる/楠川集落の屋久島大社

楠川集落を走る県道沿いに、威風堂々と立つ大きな鳥居。「屋久島大社」は、屋久島の名産品であるガジュツを原料に、胃腸薬として全国に根強いファンを持つ「恵命我神散」の製造会社である恵命堂の敷地内に建立されています。

屋久島の神社は、森の中に祀られた原始的な雰囲気を残す場所が多いのですが、こちらの神社は町の中にあり、海も近いことから、ときおり潮の音が聞こえてきます。

雅な日本庭園が広がり、景観やお社は全てが人の手で丁寧に整えられて、とても清々しい空気に包まれています。

池には鯉が泳いでいます。家族連れでも楽しめそう。

御祭神は、入口のこちらの看板に記されていました。さまざまな御祭神方がいらっしゃり、大きな御神徳に触れさせていただくこができそうですね。

この日、貴重な大祭に参列させていただきました。屋久島大社の宮司は、恵命堂社長(現在は柴嘉亮社長)が代々歴任されているそうです。天神天満も祀られていることから、太宰府天満宮との繋がりも深いのだそう。

4代目宮司の柴嘉亮氏

屋久島大社は、屋久島の地場産業の創造に大きく貢献し、のちに「屋久島聖」と呼ばれた恵命堂初代社長「柴昌範」翁によって建立されました。屋久島出身の昌範翁は、夢枕で御神仏からの啓示を受け、苦しむ人々を救うため、屋久島のガジュツ(紫ウコン)を原料に”恵命我神散”を製造しました。その後、全国へと販路を広げ、ついには「屋久島に伊勢神宮と同等の神社が建つ」との御神意に従い、晩年になり神社を建立したそうです。

初代社長であり初代宮司の「柴昌範」翁

神殿には、御米や御神酒などと一緒に恵命我神散が奉納されていました。

そして、こちらと繋がりの深い祠が、楠川集落の御神山である石塚山(1589m)の山頂にあります。真っ二つに割れた不思議な形の巨石の間に、屋久島大社の主祭神である伊邪那岐命と伊邪那美命が祀られているそうで、山岳信仰の根付いている島民の精神文化を感じます。

石塚山山頂にある祠

拝殿横の社務所には、おみくじや御守りが並んでいました。ウミガメ上陸地としても有名な屋久島らしく、人気はウミガメの開運招福鈴だとか。

神社職員の野口さん。とても親切に対応して下さいます。

参拝のあと、広々とした敷地を歩いてみると、家族連れやお散歩途中の人たちの姿が見られました。のんびりと歩いているだけで、心が整えられていきそうな素敵な場所です。

神社から感じる”屋久島らしさ”

どの場所もそれぞれの”屋久島らしさ”を感じ、霊験あらたかな場所ばかり。島全体が、神秘的な雰囲気を醸し出している屋久島にふさわしく、島の中には無数の神社や祠があり、島民に大切に祀られてきたのを感じます。人と自然と神様が三位一体で調和している屋久島の神社、今回は島の北部をお伝えしました。

「南屋久島編」もお楽しみに。

緒方 麗

1976年屋久島生まれ。 屋久島・安房河畔のダイニング&バー「散歩亭」を営む傍ら、文筆活動や音楽活動を行う。MBC南日本放送やくしまじかんwebライター、ラジオ出演。共同通信の連載"やくしま物語"執筆など。屋久島の幻の民謡「まつばんだ」を、唄×屋久杉ウクレレ×映像チームと共同制作 https://youtu.be/LepquUW-tPA』

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