しまのま
生活と文化とわたし

世界中のサーファーたちの憧れの地、奄美大島。島の東側には太平洋側からの波が届き、初心者からベテランまで楽しめるポイントがいくつもある。特に龍郷(たつごう)町の手広(てびろ)海岸は、サーファーが集まる海として有名だ。

そんな手広海岸のすぐ近くに、サーファーが集まるペンションがある。Amamian Style Pension GREEN HILL(以下「グリーンヒル」)だ。ランチも宿泊もできるので、島のサーファーも観光のサーファーも、分け隔てなく集う。

島の文化のひとつとも捉えられるサーフィン。奄美大島のサーファーたちはどんな気持ちで海を見守ってきたのか。家族でグリーンヒルを営む緑さん一家の兄弟、緑義人(よしひと)さんと優人(ゆうと)さんに話を聞いた。

緑一家が運営するアットホームペンション

グリーンヒルがオープンしたのは2000年ごろ。ご両親の義弘(よしひろ)さん秀子(ひでこ)さんと、お兄さんの義人(よしひと)さんがはじめた。もともとは奄美市の飲み屋街である屋仁川通りでスナックを経営していたご両親。義人さんがサーファーだったこともあり、サーファーたちがよく集まっていた。

「宿をやって欲しい」

そんな声をよく聞くようになり、グリーンヒルをオープンした。今では8割から9割のお客様がサーファーだ。リピーターも多く、お客様同士が仲良くなって帰って行くこともよくある。

サーフィンという共通の趣味があるので「あそこの波が良かった」「今度一緒に行きませんか」など会話が弾む。

グリーンヒルの魅力のひとつは、そのアットホームさだ。ランチはタイ料理を中心としたおしゃれなメニューが広がるが、宿泊客に向けたディナーはお母さん特製の島料理。どこか懐かしいお母さんの手料理をみんなで囲めば自然と頬がゆるむ。

2020年のコロナ禍では、お母さんの鶏飯をインターネットで販売スタート。宿泊客がいなかったので宿の売り上げはまったくなかったが、月の売り上げの60%をまかなえるほど売れた。それだけグリーンヒルが多くの人から愛されていた証拠だ。

バリエーション豊かな海の奄美大島で広がったサーフィン文化

義人さんがサーフィンをはじめたのは16歳のころ。当時はまだ島のサーファーは数えるほどしかいなかった。サーフボードのショップもなかったので、知り合いにサーフボードを借り、友人たちと交代しながら乗っていた。

しかし、数年経ち20歳を超えるころにはサーファーが一気に増えた。ちょうど日本中でもサーフィンブーム。スノーボードやスケートボードなど、ストリートカルチャーが育った時代だ。

島でサーフィンの大会があると、100人くらいのサーファーが集まった。しかし、その頃はまだ島の人がほとんどで観光客はいなかった。

2005年あたりから、世界中から奄美大島の海が注目されるようになった。一番の理由はそのバリエーションの豊かさだ。

「奄美大島の海は、リーフもあれば砂地もある。さまざまな波が楽しめるのが良い。風向きや波の高さに合わせてポイントも選びやすいしね。北風が吹けば島の西側、南風が吹けば東側と、自然の状況に合わせて行けるポイントが多いよ。」

世界チャンピオンもこの環境を気に入り、何度も通っているほどだと言う。

島に戻ってきてからはじめたサーフィン

弟の優人さんがサーフィンをはじめたのは29歳のころ。東京から島に戻ってきて、実家の宿を手伝うことになったときだ。

「お客さんが『家業を手伝うならサーフィンせんとあかんやろ』といって板とウェットスーツをくれた。そこからお客さんに教えてもらったのが始めたきっかけだった。」

サーフィンの虜になるのに時間はかからなかった。波に乗れなくても、ボードの上で海の上に浮いているだけで気持ちよかった。生まれたころから海は近くにあったはずなのに、それまで知らなかった奄美大島の海の魅力を知った。

「はじめて波に対して横に乗れたときのことはとても覚えているよ。そんな長く乗れたわけでも波がよかったわけでもない、なんともないとき。それまでは波に押されて乗るしかできなかったけど、やっと横に乗れた。スピード感があって『これがサーフィンだ』と感じられた。」

今ではサーフィンの体験サービスや、ドローンでサーフィンの様子を撮影するサービスを提供している。はじめての人でもほとんどボードの上に立てるようになる。

夢中になっているので、あっという間に時間が過ぎる。お客様が時間を忘れて波に乗っている様子を見るのが嬉しい。そして奄美大島の海の素晴らしさを感じてもらえるのが何よりの喜びだ。

誰もが安心して楽しめる場所を目指して

近年では、サーフィンが好きで奄美大島に移住してくる人も増えた。島にUターンで戻ってきた人でも始めやすい環境が整ってきている。サーフィンをしに奄美大島を訪れる観光客も増えたが、人数が増えるほどトラブルも増える。

路上駐車が増え、集落の人から苦言をもらうこともある。サーファーが集まるグリーンヒルに怒りの矛先が向くこともある。観光客が増えることをよく思わない地元のサーファーもいる。

観光で訪れる人の気持ちも、地元のサーファーの気持ちも、集落の人の気持ちも分かるだけに心苦しい。

「みんなで楽しくサーフィンができればそれでいい。お互いへのリスペクト、譲り合う気持ちがあれば仲良くできると思う。そのためには、間に入ってコミュニケーションを取っていくことが大事。」

トラブルの注意喚起や情報共有のために、海好きな先輩有志たちが奄美サーフィン連盟を立ち上げた。「こういうトラブルがあったから注意して。」そんな情報を共有し、みんなが安心して遊べる環境づくりに貢献している。

年に一度はビーチクリーンもしている。普段使う海だからこそ、感謝の意を込めてきれいにする。海の環境に配慮された日焼け止めを使うなど、海のことを考えて日々の行動を変える人も多い。

サーフィンは最高のコミュニケーションツール

サーフィンという共通の趣味があると、人種関係なく仲良くなれるのがサーフィンのよいところ。子どもから大人まで楽しめるし、世界中の人と仲良くなれる。

サーフィンをするポイントは限られているので、観光の人でも地元の人でも必然的に同じ場所に集まってくる。海から上がれば同じ場所で休憩するので自然に会話が生まれる。

「サーフィンがきっかけで島に旅行にきて、島の人と友達になって、次はその友達に会いに島に来る。サーフポイントが地元の人と観光客の交流場所になっている。そうやって奄美を好きなってくれて、通ってくれるのが一番いい。」

ダイビングや釣りなど、島ならではの楽しみはいくつかあるが、地元の人と観光客の交流がここまで生まれるスポーツはなかなかないかもしれない。多種多様な人の縁をつなげるきっかけとなるのがサーフィンなのだ。

自然と一体になる感覚を味わって欲しい

「奄美大島の波は、世界でも有数のクオリティだと思う。ボードの上で海に浮かべながら見る朝日や夕日は格別だし、カメを見られることもある。きれいな海を感じて欲しい。そして地元の人と交流して、お酒を飲み交わすと楽しいと思う。」

優人さんが願うのはただひとつ。みんなが楽しくサーフィンできること。集落の人、地元のサーファー、観光客。立場のちがう人たちの声を聞き、間に立ちながら奄美大島のサーフィン文化を見守っている。

サーフィンで波の上に立つこと。その瞬間は波と一体になり、言葉にできない爽快感がる。世界に誇る奄美大島の海で、自然とひとつになる感覚をぜひ味わって欲しい。

Amamian Style Pension GREEN HILL
住所:鹿児島県大島郡龍郷町赤尾木1728-2
TEL:0997-62-5180
営業時間:チェックイン14:00/チェックアウト11:00
HP:https://greenhill-amami.com/

カフェ・ショップ
TEL:0997-62-3131
営業時間:カフェ 10:00~22:00(ランチ11:30~16:00、ディナー18:00〜22:00)・ショップ 8:00~19:00
※カフェは短縮営業となっている場合がございます。最新の情報はHPでご確認ください。
定休日:なし

田中良洋

兵庫県出身。東京で6年間働くが、都会に疲れて2017年1月に奄美大島に移住。島ではWebライター、映像制作、ドローン撮影、マリンショップのスタッフ、予備校スタッフなど様々な仕事をしている。島生活のことを綴ったブログやSNS「離島ぐらし」を運営中。

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