しまのま
生活と文化とわたし

沖縄県内では現在、伊良部島と石垣島で行われているカツオ漁。ここ石垣島でも、大正時代にはカツオ船が60隻もあったほどカツオ漁がとても盛んで、当時は保存の効くカツオ節に加工されることが多く、海沿いにはたくさんのカツオ節工場が建ち並んでいた。


以前は波照間島や鳩間島でも行われていたカツオ漁も、いまでは八重山で1隻が操業するのみとなっている。唯一のカツオ船を持つのは、石垣島のマルゲン水産だ。


今年は6月中旬から操業を開始し、例年9月いっぱいくらいまで、台風以外の毎日漁に出ている。毎日夜中の1時に出航。数時間かけて漁場まで向かい、空が明るくなり始めた頃に漁を始める。それから数時間、1本釣りでひたすらカツオを釣り上げ、午前中に八重山漁協まで戻り水揚げが行われている。

水揚げのすぐ後に店頭に並ぶ鮮度が自慢


港に第一源丸が戻ってきた。到着を今か今かと待つのは、サシミ屋(沖縄では鮮魚店のことをサシミ屋と呼ぶ)を営む女性たち。島民も毎年楽しみにしているカツオの時期、店頭に大きなカツオを並べようと、サシミ屋の女性たちのカツオ争奪戦が毎朝繰り広げられる。


そして、なるべく早く島内のスーパーに納品するために、その場でカツオを捌いて下ごしらえが行われる。同時に沖縄本島や本土向けに出荷の準備も進められる。空輸されたカツオは、一度も冷凍することなく新鮮な状態のまま、翌朝の本土の魚市場でセリにかけられているのだそう。


船長で、マルゲン水産代表の上地肇(うえちはじめ)さん。港のすぐ近くで生まれ育ち、海人歴48年ほど。1998年にマルゲン水産を設立し、漁船の操業と仲買を行い、それから今では石垣島内で直売店と海人居酒屋 源(げん)を8店舗営んでいる。肇さんの奥さんも4人の子どもたちも、店舗経営や事務作業、そして一緒に漁にも出たりと一家総出で源を切り盛りしている。

肇さんのおじいさんもカツオ船の乗組員をし、鰹節工場もやっていた。八重山漁協近く、マルゲンの直売所がある辺りがまさにたくさんの鰹節工場が並ぶエリアだった。

水揚げ量は平均で1日2トンほど。1本釣りで、勢いよく船内にあがってきたカツオは、すぐさま急所を叩いて神経締めされ、素早く船内の魚艙に入れられていく。神経締めをすることで、身の硬直を防ぎ高い鮮度を保つことができるのだそう。


カツオ船の12人ほどの乗組員の最年長は、なんと92歳の内間仁栄(うちまじんえい)さん。海人(ウミンチュ)歴80年ほどの大ベテランだ。「中学を出てからずっと海人をやってるさ」という内間さんは、ほかの乗組員と同様に休むことなく毎日漁に出ていてとても元気。

刺身にタタキ、新鮮な島のカツオを味わう


カツオの刺身、タタキ、そして、とれたその日にだけいただける新鮮なハツ、レバーなど、余すことなく味わう。お好みで、たっぷりの薬味とシークヮーサーをきゅっとしぼって。とれた日のカツオはまさにぷりぷり。その食感が好きな人もいるし、1日寝かせて旨みが増す翌日に食べるという島の人も多い。


マルゲンがここ数年で始めたのが、カツオの藁焼き。はじめは島内の米農家さんから譲ってもらった稲藁で藁焼きをしていたけれど、藁の確保が難しくなっていたところ、市からの提案もありベチベルを使用することに。ベチベルとは東南アジアに分布する同じくイネ科の植物で、香りがよく精油や香水の原料などにもつかわれているもの。

石垣島では、畑の赤土流出防止のために畑を囲って植えるグリーンベルトの取り組みにつかわれている。大雨の度にたくさんの赤土が海へと流れ出てしまうことが問題となっていたけれど、根が大きく広く張るベチベルがそれを防ぐ役割に適しているそうだ。海のサンゴたちを守るベチベルが、おいしいカツオのタタキも作ってくれる。ベチベルで焼いたカツオは風味豊かで、ファンも多く、直売店でも居酒屋 源でも評判を呼んでいる。

マルゲンでは、カツオ以外の時期もマグロやセーイカなどの漁をしているけれど、やっぱりマルゲンの目玉でもあるし、毎日たくさんの水揚げがあるカツオのシーズンは特に大わらわ。

カツオ漁存続の心配

そんな活気あるカツオ漁だけれど、実は漁存続の心配もあがってきている。それは、餌とりの後継者がいないこと。5人ほどの専属の餌とりチームは、沖縄伝統の追い込み漁で生き餌となるグルクンの稚魚を毎日とりに出ている。追い込み漁は、数人で網を持って、獲物のいる深い場所を泳ぎ続けるハードな漁で、なかなか手を挙げる人がおらず人手不足が続いているのだそう。去年までカツオ船に乗っていた、肇さんの三男である源(げん)さんが今年は餌とりにまわっているけれど、餌不足の状態が常となっていて、チームもだんだんと高齢化してきている。

また去年は、グルクンの稚魚自体が突然とれなくなり餌が確保できず、8月初旬に漁に出られなくなってしまった。今年もそんな気配があるという。これまでもこういったさまざまな理由で、次々とカツオ船が減ってきてしまった。


直売店の営業時間は3時間ほどと短いけれど、続々とお客さんがやってくる。そんな、毎年カツオを楽しみにしてくれている人たちがたくさんいる。島の季節の味であり、伝統ある島の文化、産業のひとつでもあるカツオ漁をどうにか続けていきたい。そんな想いで、今年もカツオの最盛期を駆け抜けている。

 

マルゲン水産 直売所
所在地:沖縄県石垣市新栄町52-20
営業時間:15:00頃~18:00
休み:台風の日
マルゲン水産Instagram:https://www.instagram.com/katsuo_genchan/
海人居酒屋 源Instagram:https://www.instagram.com/marugen.suisan/

笹本真純

編集者、ライター。茨城県出身。東京でのティーン誌編集を経て、2008年に石垣島に移住。八重山のローカル誌「月刊やいま」の編集を11年間務め、島々の人の暮らしを取材する。2019年よりフリーランスで活動中。

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