しまのま
生活と文化とわたし

2020年7月、初めて徳之島入りしてから1年が経ちました。訪れるほんの数ヶ月前まで、私は“徳之島”という名前も場所も知りませんでした。友人にも「今は徳之島に住んでいるよ」と言うと「どこ?徳島?」と言われてしまうほど、私の周りでも馴染みがなくあまり知られていなかった場所なのでした。島外の人だけではなく島んちゅからも「なんで徳之島⁉︎」と何度も質問され、島民にとってもまだまだ知られていない、あるいは気づいていない魅力がたくさんあるのだと思いました。

なぜ突然この島にやってきたのか。

それは、ここ徳之島では国産コーヒーの栽培がされているからだったのです。ちょうどコーヒーの魅力にはまっていた私は、徳之島で国産のコーヒーが栽培されていると知り、それまで縁もゆかりもなかったこの島にコーヒー修行をさせてもらいに来ました。
そして今ではご縁もあり、虜になった徳之島に住所を移し、伊仙町の地域おこし協力隊としても活動しています。

徳之島オリジナルのアップルブルボン種の実 りんごのような淡いピンク色が特徴

コーヒーの魅力って。

そもそもなぜコーヒーなのか。小さい頃からただの苦い飲み物として、日常に溶け込んでいて昔はそれほど意識したことさえありませんでした。
いつしか苦さも気にならなくなり、常に身近にあり、自身をリラックスしてくれる存在となりました。コーヒーは、友達とのおしゃべりの間にも、会社の会議にも、どこにでももってこいな世界共通の不思議な飲み物です。
私がコーヒーに心惹かれるのはたぶん、それを育てる『人』も十人十色だからなのかもしれません。
農産物そのものとしても素晴らしく味や特徴もそれぞれなのですが、ここ徳之島に来て、コーヒー農家さん(コーヒー以外の農産物も同様に言えることですが)と直接繋がることで見えてくる作り手の想いや、農産物の裏側にある背景やこだわりなどちょっとした裏話に価値を感じ、惹きつけられているのではないかと思います。

宮出珈琲園にて。

ここ徳之島では、コーヒーを栽培されている農家さんが何十人もいますが、私が国産コーヒーを求めて徳之島で出会ったのが宮出珈琲園でした。農園主の宮出さんに直々に受け入れの許可をいただき、島での住み込み修行をスタートさせました。
これまで、焙煎された黒い豆の状態でしかみることのなかったコーヒー。栽培からカップ一杯のコーヒーになるまでの行程を学ぶ中で、数々の貴重な経験をすることができました。
徳之島のコーヒー事情も併せて、今回は宮出珈琲園について少しお話しさせていただきます。

宮出珈琲園の宮出さんと珈琲の木の植樹作業

コーヒーは赤道付近の“コーヒーベルト”と呼ばれる、1年を通して温暖な地域の国々で栽培されています。徳之島はコーヒーベルトからはやや外れていますが、栽培が可能な地域の北限と言われています。しかし日本は台風も多いため栽培をすることは容易ではなく、様々な知恵と工夫が必要となります。
宮出さんは、まずコーヒーが育つ森を育て、それからコーヒーの木を育てながら栽培をしています。コーヒーの淹れ方について書かれた本は数多くあるものの、日本でコーヒーの栽培について書かれた教科書はなく、常に試行錯誤の連続だったと言います。
一時は台風で手塩をかけて育てたコーヒーの森が全滅してしまったことも。困難な環境で何度失敗しても、良いものを作るための努力を惜しまない人柄だからこそ、周囲の人々を魅了する価値あるものを生んでいるのだと感じます。

宮出珈琲園ですくすく育つコーヒーの木たち

珈琲の木まるごと、いただく。

宮出さんから教わったことの中で一番印象的なことは、コーヒーの豆ではなく『木』を育てているのだということ。豆だけでなく、葉っぱやお花、果実部分にも価値を見出しています。
実際に商品化している珈琲の木まるごとシリーズ「Coffee tree apartment」は、珈琲の木の住民は豆だけじゃない、いろんな住民がいるよ、というなんとも可愛いコンセプトが名前の由来らしいのです。私自身も葉っぱのほうじ茶、花茶、果皮の部分を使ったカスカラ茶の試飲をする機会がありましたが、部分ごとに違う味わいを楽しむことができ、本当にクセになる美味しさなんです。

コーヒーの木まるごとシリーズ

ここだけの、スペシャルな発酵珈琲。

それでも一番のこだわりは、やっぱりコーヒー豆。
産地や作り手、精製方法により風味や味わいも様々なコーヒー豆なので、自分の好きなコーヒーはこれ!という方も少なくないかもしれません。
国産コーヒーには甘味がありスッキリとしたキレの良さが特徴ですが、やや個性が弱いという課題もあるそうです。なので研究に研究を重ね、摘んだ後のコーヒーの実を発酵させることで、世界に通用する宮出さんだけにしか出せない独自の美味しさを追求しています。実際に栽培、精製、抽出、全ての行程で愛情たっぷりかけられた豆を一口飲んでみると、ワインやチョコレートのような芳醇で他にない新たな香りのコーヒーに出会えます。

発酵させて白くなったコーヒーの実

そんな宮出珈琲園に興味がある方へ耳より情報。

現在、宮出珈琲園では独自のユニークな体験プログラムがあるとのことです。農園を実際に見て体感し、農家さんのお話しを聞きながら、コーヒーの木をまるごと使った世界中どこにもない貴重な一杯を味わえる特別な時間。きっと新たな世界に心ときめくことでしょう。徳之島のコーヒーにご興味のある方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

体験プログラムの様子

作り手の想いやこだわりをダイレクトに知ることで、その農産物や商品の本当の価値がわかる気がします。徳之島では農家さんの距離も近く、おもしろいお話もたくさん聞ける場所だと感じています。今回はコーヒー事情に的を絞ってお話しさせていただきましたが、徳之島はコーヒー以外にも、果物など農家さんの愛情たっぷりに育てられた農産物がたくさんあります。作り手の背景やエピソードを知りつついただくものは格別の美味しさで、徳之島に住んでからはいつもその幸せをかみしめています。

 

宮出珈琲園
メール: miyadecoffee@gmail.com
オンラインストア: https://coffee-tree.stores.jp/

矢野夢子

2020年7月コーヒー修行をしに初めて徳之島を訪れて以来、素敵な海や山、美味しいフルーツ、あたたかい島の人たちに魅了され徳之島が大好きに。2021年4月から伊仙町の地域おこし協力隊して活動しており、現在は島の特産品を使った商品開発などに携わっている。

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