しまのま
生活と文化とわたし

(撮影/TIPS & TRICKS)

鹿児島の名産品のひとつ「さつまあげ」。本場・鹿児島では「つけあげ」と呼ばれ、日々の食卓やハレの日の席、贈答品としてスーパーから専門店までさまざまなお店で取り扱われている。今回、加治木港のほど近くで80年以上もさつまあげを製造、販売している【田中かまぼこ店】の三代目・田中健太さんにもお話をうかがった。

夜中にお腹が空いて冷蔵庫を開けると、“さつまあげ”があった。「ちょうどいい」と、ひとつ、つまむ。モグモグしながら思わず「おいしい」とひとり言を。さつまあげはおかずにもお酒のおつまみにも、子どものおやつにもなり、鹿児島名産の贈答品としてもよく利用される。そして、夜食にもぴったり。

旬食材が入ったさつまあげのバリエーションも豊富な田中かまぼこ店。(以下、撮影/やましたよしみ)

さつまあげの歴史は古い。長い年月をかけて中国から薩摩、薩摩から日本全国へ伝わったとされており、鹿児島のさつまあげ(薩摩揚げ)は薩摩藩28代当主島津斉彬公の時代に、琉球との交流が深まり、中国料理の「揚げる」技法がかまぼこづくりの製法に加わって現在のさつまあげになったと言われている。つまり、さつまあげはかまぼこのひとつ、なのだ。

ひとつひとつさつまあげの生地を成形する田中かまぼこ店の田中さん。

筆者が東京から鹿児島へ移住してきた10年前、生粋の鹿児島県民である義母がさつまあげのことを「つけあげ」と呼んでいたが、最初は何を指しているのかわからなかった。調べてみると、「つけあげ」の由来は諸説あるが、ひとつは、すり鉢で魚のすり身を“つく”ようにしてつくって“揚げ”ることから。ほかには、琉球料理の魚のすり身を油で揚げた“チキアーギ”がなまって「つけあげ」と呼ばれるようになったという説も。他県では、「天ぷら」「はんぺん」「揚げかまぼこ」など、地域によって呼び方が異なる。

成形した生地をフライヤーへ。揚がり具合いは色味で判断するとか。

さつまあげは鹿児島の特産品であるが、発祥の地は串木野(現在は合併して、いちき串木野市)。全国的には鹿児島のさつまあげはすべて同じように認識されているかもしれないが、串木野産のものは豆腐が入っていてふんわりした口当たりが特長だ。あらためてスーパーに並ぶさつまあげを見比べると、串木野の店でつくられたものには<本場・串木野産>と記され、発祥の地のプライドが感じられる。

鹿児島在住10年で気づけば一丁前に「つけあげ」と呼んでいるが、鹿児島県民がどのようにさつまあげを食しているか、リサーチしてみた。すると、「お父さんの晩酌のお供とおかずを兼ねて毎日のように食卓に並んでいた」「食べるときは何もつけず、そのまま食べている」という家庭が少なくないことがわかった。確かに、さつまあげは副菜や小鉢に最適である。それから、定番の「おでん」や「お鍋料理」、「炒め物」から、「お弁当のおかずにお母さんが入れてくれていた」という人も。60代の人からは「昔は高級品だった。山間部には行商の人が売りに来たけれど、なかなか買えなかった。お正月やお祝い事のときに、少し添えられていたくらい」との声もあった。

創業当時の田中かまぼこ店。お客さんは着物を着ている。(画像提供/田中かまぼこ店)

歴史がある郷土の食だけに、家庭ごとに“わが家の当たり前”と“わが家のこだわり”があるように感じられる。鹿児島の多くの人は、お気に入りのさつまあげ店があったり、好きなさつまあげの味や食感があったりする。そうして贈り物をする際には、好みの店のさつまあげを選ぶのだ。(鹿児島のさつまあげを県外の人に贈ると、とても喜ばれる。本場の味の力よ!)

全国から注文が入る贈答用のさつまあげを箱詰めに。

では、さつまあげをつくる人は一体どんな気持ちでいるのだろうか。加治木港近くで80年以上もさつまあげを製造、販売し、地元の人々から愛されている【田中かまぼこ店】の三代目・田中健太さんを訪ねた。開店前の店内には揚げたてのさつまあげが、なんとも香ばしい香りを漂わせながら並んでいる。

田中かまぼこ店の店内。オープンしたら地元のお客さまでいっぱいに。

“鹿児島名物のさつまあげについて聞くぞ!”と意気込んで向かったものの、「名物であるとか、特別であるという感覚はないですね」と田中さん。子どものころから繫忙期には店の手伝いをしていたり、おじいさんやお父さんがさつまあげをつくる姿を間近で見ていたりしていたため、さつまあげを名物として意識していなかったそうだ。とはいえ、「県外で開催される物産展などで販売するときは感じます。味見をしなくても鹿児島のさつまあげ、というだけで購入されるお客さまも少なくないですね」という。それほどまでに、さつまあげが鹿児島のブランドとして確立されているということだろう。

お店の前で、田中さんご夫妻をパシャリ。

田中かまぼこ店のさつまあげは、創業者である祖父がつくりあげた味を継承している。「鹿児島のさつまあげは、砂糖がまだ貴重だった時代の名残で甘いものが多いのですが、うちのさつまあげは甘くありません。すり身は、スケソウダラとイトヨリを使っていて、合成保存料は不使用です。食感はふわふわとキチキチのちょうど間くらい。硬すぎない食感です」と田中さん。鹿児島の食べ物は甘いものが多いが、魚のうまみが感じられ、喜界島の粗糖のやさしい甘みとほどよいぷりぷり感がクセになる味わいだ。

揚げたてのさつまあげ。成形から揚げあがるまではあっという間。

そのまま食べてもおいしい田中かまぼこ店のさつまあげだが、プロのおすすめの食べ方を聞く。「温かいのがいいときは電子レンジで温めるのではなくて、トースターで焼くとよりおいしくなります。あとは食材のひとつとして、いろいろな料理にアレンジしていただくのもいいですね。どんどん好みの食べ方で召し上がっていただきたいです。最近は、お客さまからさつまあげをサブスク制で味わいたいというお声をいただいたのですが、どう思います?」。そう話す田中さんからは鹿児島の食文化を継承する気負いは感じられず、さつまあげのさらなる可能性を探る言葉には、今後の展開を期待してこちらまでワクワクした。

おかずにも酒の肴にも、おやつにも、夜食にもぴったりのさつまあげ。ひと口に本場鹿児島のさつまあげと言っても、お店によって味や食感、バリエーションが異なるので、全国のみなさまにも鹿児島県民のようにぜひお気に入りのわっぜうまい「つけあげ」を見つけていただきたい。

 

田中かまぼこ店
営業時間 9:00-18:00
定休日 日曜
所在地 鹿児島県姶良市加治木町港町33
TEL 0120-19-2218
HP https://www.agezukushi.co.jp/

やました よしみ

編集・ライター。鹿児島市在住。静岡県浜松市出身。大学卒業後、都内の出版社、編集プロダクション勤務を経て、2011年、夫の故郷である鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。得意分野は食と暮らし、アート。“デザインとアートと食”をかたちにするクリエイティブユニットのメンバーとしても活動中。

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