しまのま
生活と文化とわたし

海を眺めながら家に帰ると、西日で輝く縁側にジャガイモがこんもり入ったザル。まるで昔話の笠地蔵を思わせる、でも届け主は地蔵ではなくきっとご近所さん。お隣の前田さんかな、それとも向かいの安田さんかな。代わりに島に感謝しながら肉じゃがでもつくろうか。

そんなおすそ分けは、島に移り住んだ人がまず驚く習慣のひとつです。

島に限ったものではありませんが、いつどんなものをもらうかで、旬の野菜、郷土の料理やお菓子といった土地柄が見えてくるもの。とくに沖永良部島(おきのえらぶじま、以下「えらぶ」)は農業が盛んな島なので、島民の手と手をしばしば作物が行き交う気がします。

そんなおすそ分けについて、島人たちから写真とお話を集めてみました。

“農業島”のおすそ分けの主役はやっぱり野菜!

牛を育てるKさんの家に訪れた来客は、以前自身が販売する牛肉を買ってくれたお客さん。「お返し」ということで置いていったものはジャガイモとエラブユリ。お金を払って買いながら、お返しを持ってくるとは…!

えらぶはジャガイモの名産地、秋口に植えられたものが掘り起こされて、赤土でゴロゴロと転がっている光景が島中あちこちで見られます。その季節のはじまりがちょうどいまこの原稿を書いている2月から、4月まで。「えらぶのおすそ分け」の代表格と言えるでしょう。

こちらのSさんがいただいたおすそ分けもジャガイモ。お隣さんはジャガイモ農家で、カゴいっぱい(右隣の袋ふたつも!)もらうことも!それまで空き家だった場所にSさんが引っ越してきたとき、お隣さんは「隣の家に明かりがついてくれているのがうれしい」とお話されていたそうで、その思いがおすそ分けのボリュームにあらわれているのかもしれません。

中身は少し見づらいですが、こちらはジャガイモと生姜、トマトとみかん、そしてえらぶの伝統菓子やちむち(黒糖入りホットケーキ)というなんともぜいたくでボリューミーな詰め合わせ。島で演劇の舞台を準備しているОさんへの、島人からの激励の品とのことでした。

Оさんの話では、夕方に昼寝から目を覚ましたら、土間にある灯油ファンヒーターの上に置いてあったそう。「たぶん寝姿もばっちり見られていたのだろうと思うと、もう、恥ずかしくて恥ずかしくて」とのこと。起こさないよう静か~に置いていった様子がうかがえます。

ジューサー必須!夏のおすそ分けはフルーツ盛り

Hさんがもらったおすそ分け。夏は島バナナも定番です。本土で出回っている外国産に比べると、ひと回り小さめで、舌の脇をキュッとやさしく刺激する酸味が特徴的。島バナナ農家さんによると、昨年(2020年)は台風被害が少なくとくにバナナが豊作だったそうです。

食べきれないバナナは、取り出した実を冷凍保存しておくのがセオリー。

ご近所にマンゴー農家さんがいるとラッキー!…というと、いささかいやらしいですが、本土では簡単に手が出ない高級フルーツ・マンゴー、その規格外のいわゆるB品が安く買えることはは島暮らしならではの魅力でしょう。地元スーパーでもときどき見かけますが、近所や親戚筋などで育てている農家さんがいればおすそ分けしてもらえることも。

私はおすそ分けのフルーツを食べきれず、慌ててジューサーを購入しました。これが大当たり!えらぶはじめ奄美群島に住むなら、クオリティ・オブ・ライフがだだ上がり。最近はボトルサイズのものもあるので、なんなら旅行のお供にもオススメできるくらいです。店頭で販売している(無人販売ふくむ)果物農家さんもあるので、ジュースの旅と洒落込んでは?

島バナナ、マンゴー、パッションフルーツ…。夏の島フルーツたちにミルクと少量の氷を加えてジューサーにかけたら、それはもう鮮度抜群!ミックスジュースの出来上がりですよ。

冬から春にかけては、島みかんも出回ります。「みかんをおすそ分けしたらおすそ分けでみかんをもらった」という笑い話も。それは間違いなく豊作だった証です。

ご近所が漁師さんだと伊勢エビまでもらえちゃう

島バナナにつづきHさんから。近所の漁師さんから「食べたことないでしょう」と、伊勢エビ三尾!茹でて半分に割っていただいたとのこと。「伊勢エビ漁をしているときは海の底のエビが諭吉(一万円札)にしか見えんね」と話していたことが印象的だったそうです。そんな高級食材までときにはおすそ分けしてもらえることは、島生活の醍醐味かもしれません。

Hさんは雌鶏を飼っていたので、よくお返しで玉子をおすそ分けしていたそうです。

これは私が釣り人の方からおすそ分けしてもらったブダイで、一尾千円近くする高級魚。島ではから揚げにすることが多い魚、私はタルタルソースをつくりフィッシュ&チップスに。

余談ですが、島(田舎)移住あるあるのひとつに「料理の腕が上がる」ということがあると思っていました。その理由は「飲食店が少ないから自炊する」と考えていましたが、「いろんなおすそ分けを調理しているうちに料理の腕が鍛えられる」という理由もありそうです。

おすそ分けは家計も助かる心づかい

沖永良部島は農業が盛んなので、週末だけの兼業農家さんも多いです。なのでおすそ分けのラインナップも豊富ですが、たとえば移住者など農家ではない人には、お返しに悩むもの。

そんな友人のひとりは「実家から送られてきた冷凍シュウマイを渡す」という話をすると、それに対して地元出身の友人は「みんなそれを期待してるんですよ」と返して、ひと笑い。そう考えるとよくできた習慣だなぁと感じます。

田舎の家は鍵をかけないというのはよく聞く話。私がこの島に住みはじめた頃は理由がサッパリ分からなかったんですが、おすそ分け文化によるところが大きいのかもしれません。ちなみに置き配(配達物を玄関先に置いてもらう)のときも便利です。「島に悪い人はいない」という言葉を何度か耳にしたことがあるのですが、それを象徴する習慣だと思います。

離島は、本土に比べて流通コストが高く何かにつけて物価が高くなりがち、それだけに物々交換というおすそ分けはありがたいものです。しかし、「みかんを渡したらみかんで返ってきた」という話があるように、その根っこは物々交換そのものよりも、それを通して伝わる心づかいやコミュニケーションにあるのかもしれません。

ネルソン水嶋

1984年大阪出身、母の故郷は沖永良部島・国頭のえらぶ二世。2020年夏に移住、ライターやYouTuberとして島暮らしの様子を発信。「地域づくりと多文化共生」というテーマでTシャツ制作など事業展開中、詳細は本人まで。

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